ケン幸田の世事・雑学閑談(千思万考)
第百四十八話:「虫いろいろ」    
2023/09/01
俳句で「虫」と言えば秋の季語で、鳴く虫の総称ということになりますが、春の季語には、
啓蟄、初蝶、蜂、蚕、虻、等があり、夏の季語には、蝉、蟻、蠅、天道虫、蛾、蜘蛛、などもあります。
そして、冬でさえ、綿虫(雪蛍)に加え、苦し紛れの、残る虫、虫絶ゆ、などの季語が存在します。
というのも、虫は地球上の生物の最大数を誇るので、何時でも何処でも人の目に触れないことがないのです。地球の全生物が8百万種、内動物が175万種、そのうち6割近い百万種が虫なのです。
中でも最大数を誇るのが,シロアリ(ゴキブリ族)で世界に24京匹、3千種あり、内20種が
在日種だそうです。

第二位が、蟻(蜂属)で1京匹、1万5千種、内3百種が在日種のようです。

蟻の道雲の峰よりつづきけん     小林一茶
月更けて桑に音ある蚕かな      黒柳召波
草枕虻を押へて寝覚めけり      齊部路通

「蓼食う虫も好き好き」というから、人により民族により、好みが違うのは仕方ありませんが、
日本人は鳴く虫やトンボが好きですが、アメリカ人はコオロギや蝉の鳴き声は雑音としてしか関心がなく、
日本人なら誰もが嫌がる蛾を美しいと愛でるのは驚きです。
中国には、「蛾眉」という言葉があって、美人の眉や三日月の形容に使いますが、
矢張り蛾を美と感じているのかもしれません。
尤も我が国にも「虫目づる姫君」など、グロテスクな虫を愛する少女もいなかった訳でもないのです。
我が国最大の蛾は「ヨナグニサン」(英語名はアトラスモス)といい、映画モスラのモデルになったと
言われますが、以前昆虫館で見たことがあり、大きくて派手な色彩で、これなら米人好みかも知れないと
思った次第です。

酌婦くる灯取虫より汚き蛾       高浜虚子
山の蛾はランプに舞はず月に舞う   水原秋櫻子

虫を秋とする俳句前史によると、平安時代の堂上貴族が、虫の音を賞し、微細な相違を聞き分け、
江戸時代には大衆化して、縁日の夜店で虫売りが出るようになります。
生物学者大町氏は、秋の虫は提琴家(弦楽奏者)、夏の蝉は声楽家だと言い、
俳諧師は夜長にジーと鳴くケラの声を「蚯蚓鳴く」と情緒てんめんなる秋の季語にしています。
脳科学者によれば、左脳は言語、論理、情緒を、右脳は、芸術、直感、空間、音階処理を受け持つので、
日本人は左脳で虫の声を聴き、西洋人は右脳で雑音としか捕えない違いがあって、
遺伝的には、ポリネシア海洋民族が日本人と同じ文化ルーツに繋がり、一方、東洋系でも
中国人、朝鮮民族、インド人などは西欧人の情緒ルーツを共有しているのだそうです。

虫の声草の懐はなれけり        高井几董
行水のすて所なき虫の声        上島鬼貫
うたたねの暮るるともなし蝉の声     炭太祇
三味線をひくも淋しや蚯蚓なく     高浜虚子
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