ケン幸田の世事・雑学閑談(千思万考)
第百四十四話:「ほととぎす」
2023/05/06
国語辞典を引くと、平仮名、片仮名、漢字が多数出て来て、渡り鳥、多年草、俳句誌、 そして文学作品まで、多種多様な“ほととぎす”が出ていて、戸惑いを覚えますが、 ここでは、五月中旬に我が国へ渡って来て、夏の間山林で繁殖して、 九月下旬に東南アジア方面へ帰る「夏鳥」を取り上げます。 漢字では、時鳥、杜鵑、沓手鳥、霍公鳥、妹背鳥、早苗鳥、田長鳥、勧農鳥など、 限りがないので、タイトルを平仮名表記としました。 道元禅師の歌「春は花夏ほととぎす秋は月、冬雪さえてすずしかりけり」に代表されるように、 四季を代表する景物として、和歌以来の古い伝統に立ち、最も重い季題とされて来たようです。 曙はまだ紫にほととぎす 松尾芭蕉 ほととぎす貴船へ通ふ禰宜ひとり 小西来山 野を横に馬牽き向けよほととぎす 松尾芭蕉 有明の面おこすやほととぎす 榎本其角 昔の人には、渡り鳥だとの知識がなかったようで、山にこもっていたのが、 五月頃に出て来て初音を聴かせて呉れるので「山ほととぎす」と言い、 ただの風流心に留めず、農民たちにとっては田植えの用意を促す呼び立ての声と 聞き取っていたのです。 雄の鳴き声は”キョッ、キョッ、キョッ、キョッ”(特許許可局)とか ”テッペンカケタカ”と聴こえ、雌は”ピチピチ”と地鳴きだけです。 ほととぎす鳴くや湖水のささにごり 内藤丈草 空になくや水田の底のほととぎす 上島鬼貫 軽口にまかせてなけよほととぎす 井原西鶴 田植え時の催促を証明するのは 「早苗鳥」「田長鳥」「勧農鳥」と言った表記で いくばくの田を作ればか時鳥しでの田長を朝な朝な呼ぶ 古今集 因みに「ホトトギス」と片仮名で書けば、明治時代に松山で創刊された俳句誌で、 後に発行所を東京へ移し、高浜虚子が正岡子規等の協力を得て続刊、 俳句革新運動の拠点となりました。 時鳥は鳴く際に、口中の鮮紅が見えるので鳴いて血を吐くと言われ、 「子規」とも書きますが、正岡子規は結核を病み喀血したことから「子規」を 俳号にしたと言われております。 みつまたの上や血になくほととぎす 正岡子規 血に啼くや草噛む女時鳥 同 血判の誓紙裂きけり時鳥 同 最後に、残りの「ほととぎす」を紹介しておきましょう。 一つは、ユリ科の多年草で、丘陵や低山の湿った生える植物で、 時鳥草、油点草、杜鵑草等の字を当てますが、秋の季語となります。 命名は、花の紫色の斑点模様を、鳥の胸にある斑点に見立てたのだそうです。 もう一つは、「不如意」と書き、これは徳富蘆花の文学作品名で、 明治社会の家庭悲劇小説です。 |
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