ケン幸田の世事・雑学閑談(千思万考)
第百二十三話:「夏と鮎漁:鵜飼・川明き・舟遊びと猪牙舟」
2021/06/01
「夏と言えば鵜飼」  
 盛夏と言えば、川べりの旅館に宿を取り、冷えたビールと鮎の塩焼きに
舌つづみを打つのも風情があってよろしいが、コロナ禍では、ままならぬこの期です。
その昔、社員旅行で、長良川の鵜飼いショウを観光したことがあり、
歳時記に取り上げるのも一興かと存じます。
鵜飼は昔から、闇夜にするものと決まっていて、月が明るいと「鵜篝火・鵜飼火・鵜松明」の
効果が半減して、鮎の寄りが悪いから、上弦の夜は月の落ちるのを待ち、
下弦の夜は月の出る前に、鵜舟を出したのだそうです。
もっとも、昨今のように観光の目玉としてのショウになってしまっては、
月が出ようとも、やめる訳にゆかないようです。
この優雅な漁法の歴史は古く、「万葉集」「日本書紀」にも記載があるそうですから、
1300年も続いていることになります。
「婦負川の早き瀬ごとに篝さし八十伴(やそとも)の男は鵜川立ちけり」大伴家持(万葉集)
「大井川浮かぶ鵜舟の篝火に小倉の山も名のみなりけり」在原業平(古今六帖)
 
岐阜市の長良川、関市の小瀬川は皇室の御料鵜飼、犬山市の木曽川は
献上鵜飼として名高く、他にも京都宇治川、日田市の三隈川などでも、
鵜飼ショウが観られるようです。
鵜飼には、川鵜でなく、喉と嘴が大きい海鵜が用いられ、鵜籠から出された鵜たちは、
水中に放たれると、篝火に照らされながら、くぐっては、魚をくわえて
浮き上がって来て、吞み込んで喉がふくらんだと見るや、鵜匠は縄を
手繰りよせ鵜を抱え上げ、喉あたりを撫でて魚を吐かせる、
一連のさばきは見事で、実に目まぐるしく見事で、堪能させられます。
「鵜をつかふ心、みな夏なり」と古書にありますが、鵜と鵜匠と火と川水と
夜の織り成すドラマは、まさに夏に相応しい一大風物詩と言えましょう。            
 
おもしろうてやがてかなしき鵜舟かな    松尾芭蕉
老なりし鵜飼ことしは見えぬかな      与謝蕪村
鵜飼火に燃えてはたらく白髪かな      立花北枝
いさぎよし鵜の胸分けの夜の水       炭 大祇
闇中に山ぞ峙つ鵜川かな          河東碧梧桐
鵜飼名を勘作と申し哀れなり        夏目漱石
 
夏の川祭りと言えば、架空の動物「河童」が思い起こされます。元来は水の神で,
田の神の零落した形として、村々、家々に幸いを齎す神でしたが、
親しみが加わってくると、時々いたづらもされる河童の形を
考えるようになったようです。
 
河童(かはたろ)の恋する宿や夏の月     与謝蕪村
落日や河童の気配背に満ちて        栗原憲司
 
漁猟解禁を意味する「川明き」という季語は、鮎釣りの解禁を言いますが、京都の鴨川では
陰暦の六月一日を川明きとしましたが、今日でも陽暦の六月一日を漁猟解禁日とする川が
日本全国には多いようです。
中には、長良川は五月十一日、久慈川は六月十五日などと、特別な日もあります。
相模川は、六月一日から十月十五日までを鮎漁の期間と定めております。
鮎と言えば、万葉の頃からの”川魚の王様”で、風味の良さもあり、はなはだ賞味され、
その独特の香りから”香魚”とも呼ばれ、旬の題にも多くなっています。
                    
   浮鮎をつかみ分けばや水の色    椎本才麿
   鮎くれてよらで過ぎ行く夜半の門  与謝蕪村
   激流を鮎釣竿で撫でてをり     阿波野青畝
   山の色釣り上げし鮎に動くかな   原石鼎
                    
「川明き・舟遊びと猪牙舟」
川釣りと言えば、長くて撓りも良い釣り竿が進化する以前は、小舟を繰り出しての釣りも
多く見られましたが、舟遊び以外にも、人の渡しとか貨物搬送用に、昔から小舟は、
貴重な運輸手段でした。
舟の源流は、古代海洋族文明の丸太船だそうで、我が国の縄文人と、古代エジプト人の舳先を
尖らせた丸太船は、ともに古代東西文明利器の代表として歴史に名を留めております。
その東西世界史の近代版末裔が、江戸初期に生まれた猪牙(チョキ)舟と、ベネチアのゴンドラ舟で、
共に屋根はなく、細長く船首が尖っていて、船頭一人に極少人数の客を乗せる”かつての高速艇”で、
船尾の船頭が手漕ぎの櫂を操る姿が粋な乗り物でした。
    
   老一人のせて静かに遊び舟     富安風生
   俊寛のごとく遊船見送りぬ     黒川花鳩
                    
猪牙という名前が唐突で面白いですが、舟の形が猪の牙に似ているからという説が一般的ですが、
一方で長吉という舟大工が最初に造った「長吉舟」が、なまって「ちょきぶね」になったという説も
あるようです。
なお、舟遊びや渡しとして小舟を操る船頭同士が、並走する他舟に後れを取らぬ様に,
早漕ぎを競って勝ちにこだわったことから、「猪牙(長吉)を負かす」が
転じて「ちょろまかす」という言葉が生まれたという話も伝えられています。
 
川釣りでよく知られる陸封魚には、鮎よりは上流の渓流にいる岩魚と、下流に棲んでいる
山女魚(あめご)があり、いずれも山中での美味として賞味されています。
                    
    山桑の花咲く頃の岩魚狩      高野素十
    山女釣晩涼の火を焚きゐたり    水原秋櫻子

 
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