健康と食品の解説
偽装列島を健康に生き抜く知恵(4)
米国がサリドマイド上陸を阻止できたのは
FDAのフランシス・ケルシー薬理学博士の英断
2019/01/14
インフルエンザ、高血圧、糖尿病など需要の大きい市場には次々と新薬が開発されています。
しかしながら難病といえない日常的な病に作用機序実績の無い新薬の投与は慎重であるべきで、
徐々に広めていく必要があります。
昭和から平成にかけての半世紀にサリドマイド薬害事件、スモン(キノホルム薬害)、薬害エイズ、
ソリブジン薬害、薬害ヤコブ病、薬害C型肝炎、イレッサ薬害など信じられないような薬害が
多発し、数多くの死者が出たことを忘れてはならないと思います。

医薬品ならば安全で信頼できると信じてきた患者が、新薬の危険な副作用情報を
知らされずに、どれだけ医薬品に苦しめられてきたか。
国内で製造または輸入された医薬品が危険と判明しても、在庫を捌くまではその情報がいかに
隠ぺいされてきたかは、年配で大病を患った人ならば誰でもが経験してきたことですが、
次第に遠い過去になりつつあります。
数々の事件を覚えている医療従事者はほとんどが高齢者となり、現場から離れています。

医学が飛躍的に進歩している現在でも安全な医薬品はありません。
この半世紀の薬害事件で死者が多発したのは製薬会社、医療機関、監督行政などによる
人災が多かったということが、各事件の裁判でも明らかとなっています。
盲目的に大企業や行政機関の権威を信じる国民性が裏切られてというより、
逆手に取られたということです。
営利を追求しなければならない民間企業の医薬品製造会社に
患者ファーストを要求するのは無理があります。
医薬品が腎臓、肝臓を傷めるのは当然のこととして副作用とは
言えないのかもしれませんから、国民は必要性、安全性を自己判断し
自己防衛しなければなりません。
真の安全性の立証は非常に困難なことを知るべきであり、利害関係者の主張に
惑わされない強い意思のみが薬害を防ぎます。



1. サリドマイド剤(Thalidomide
の始まり
2. サリドマイド胎芽病と世界の被害者
3. レンツ博士(Widukind Lenz 1919–1995)の警告
4. サリドマイド剤の発売停止
5. 米国はサリドマイドの上陸を阻止 
 
1. サリドマイド剤(Thalidomideの始まり
サリドマイド剤(Thalidomide)(商品名:コンテルガン:contergan:alpha-ph[thal]-im[ido]-glutari[mide]は1957年10月1日にグリュネンタール社(Grünenthal:西独)から、
発売されました。
用途は鎮静催眠剤や悪阻(つわり)止め。
最終的に世界約40カ国以上で販売。
日本では大日本製薬(株)が睡眠薬イソミン(1958年 1月発売)や神経性胃炎の薬プロバンM(1960年発売)として販売。
医療用薬のほか、大衆薬としてOTC(一般の薬局)ルートでも販売されました。
 
*イソミン:コンテルガンの輸入では無く大日本製薬(株)がレシピに沿い独自に合成したもの
*プロバンM:抗コリン薬の臭化プロパンテリンにイソミンを配合したもの
 
2. サリドマイド胎芽病と世界の被害者
サリドマイド剤の服用は神経系障害(多発性神経炎、中枢神経刺激症状など)や、
サリドマイドを妊娠初期の母親が服用することによって、
胎児(正確には胎芽:週齢で3~7週)に生じる催奇形性障害(奇形)の
「サリドマイド胎芽病」と呼ばれる重症の四肢欠損症、耳の障害などを与えます。
 
患者は、西ドイツ3049人、日本309人、英国201人、カナダ115人、
スウェーデン107人、ブラジル99人、イタリア86人。
全世界で3900人(例)と報告されていますが、30%の死産を算入すれば
総数は5800例と推定されています
 
3. レンツ博士(Widukind Lenz 1919–1995)の警告
障害(奇形)を持って生まれた子の親たちから相談を受けて
「サリドマイドが催奇性を持つのでは」と疑いを持ったのがハンブルグ大学の
若い医学者、薬学者のレンツ博士(Widukind Lenz )。
学生時代に7年間にわたり薬学を学んだといわれます。
博士は少数のサンプルとはいえ熟考された仮説を疫学の正統手法に従い
立証してみせました。
自身で集めたサンプルはサリドマイドを服用したことが確実な症例が
21例中14症例でしたが、協力者の報告などを含めて仮説に確信を持った
博士は、得られた結果を製薬会社などに報告するとともに、後に
「レンツ警告」と呼ばれるようになった「明確な科学的な証明があるまで
回収を待つべきではなく、その時点で疑わしきは直ちに回収すべき」

主張しましたが、会社側は、「科学的な証拠となるものは何もない」と
反論し、結論を出さなかったといわれています。
 
「レンツ警告」当時の博士は弱冠42歳。ナチの第三帝国と
優性民族主義を信奉する父親の感化か、第二次大戦中にヒトラーユーゲントや
SSであった過激な経歴のために信用度が低かったのではといわれてます。
しかしながら学者一族の優秀な研究者であることが広く知られていたために
1962年には、ハンブルグ大学人類遺伝学教授に就任。
大作の「*人類遺伝学(Medizinische Genetik)」を著しています。
その年には「レンツ警告」が広く知られるようになり、裏付ける報告が続出。
レンツ博士の功績を誰もが認めることとなりました。
*人類遺伝学(Medizinische Genetik)
『医学からみた遺伝学』講談社サイエンティフィック。
木田盈四郎監訳(1981年)
 
 4. サリドマイド剤の発売停止
サリドマイド剤は、ヨーロッパ諸国では1961年11月27日に発売が停止されましたが
大日本製薬(株)は、レンツ警告後もサリドマイド製剤の製造販売を続け、
「イソミン」は何故かそれよりだいぶ遅れた1962年5月に出荷停止されました。
妊婦が悪阻(つわり)止めとして服用する機会が増え、
サリドマイド胎芽症の新生児が生まれる催奇形を認めたからといわれていますが、
販売商品の回収を決定したのは同年9月。
発売停止と回収が(嫌々で)遅れたこともあり、レンツ警告後の
サリドマイド児数は、日本が世界一です。
*その後患者の団体が製薬会社などを提訴し、結審に至るまでの経緯には多くの記録が
 出版、ネット上にありますのでご参照ください。
*サリドマイドパラドックスを説明 ~鏡像異性体を持つ医薬品の使用に警鐘
      名古屋工業大学プレスリリース|2018年11月20日掲載

サリドマイドは,1950年代後半に四肢奇形という悲劇的薬害を引き起こしたくすりです。
当時,サリドマイドは我が国ではイソミンという名称で睡眠薬/鎮静薬として処方されました。
妊娠中の女性には対しては,つわりの軽減に効果的なくすりとして一般に広まっていきました。
ところが数年後,それまでほとんど知られていなかった手足に重篤な障害(四肢奇形)を持つ
新生児の報告が相次ぎました。
その後,この原因物質がサリドマイドであることが特定され,サリドマイドの使用が禁止されました。
しかし,皮肉なことにサリドマイドは,ハンセン病,エイズ,免疫不全症候群などの
多様な疾患治療薬になることが,その後の研究で次々と明らかとなっていきました。
現在,サリドマイドは世界各国で再認可され,多発性骨髄腫や重度のらい性結節性紅斑の治療薬として
新商標THALOMID®(日本名サレド®カプセル)として発売されています。
 サリドマイドの化学構造には,一つの不斉炭素原子があります。そのため,
アミノ酸と同じように,右手型(D体,R体)と左手型(L体,S体)の鏡像異性体が存在します。
1979年,ミュンスター大学のBlaschke教授らは,独自に開発した光学異性体分離カラムクロマトグラフィーを用いて
鏡像異性体を分離し,それぞれによる動物実験を行いました。
その結果,サリドマイドの左手型鏡像異性体にのみ催奇形性が観察され,
右手型鏡像異性体は奇形を誘発しないという実験結果を得ました(引用文献1,図1)。
この報告は医薬品開発における鏡像異性体の薬効の差異を認識させる重要な論文となり,
鏡像異性体の片方のみを選択的につくる技術「不斉合成」の発展に大きく寄与しました。



*キラル (chiral)と(ラセミ状態:racemic mixture
化学合成素材は化学式が同一でも天然とは異なります。
キラル (chiral)と呼ばれる異性体(鏡面体)の存在です。
酵素(タンパク質)に例をとれば、合成アミノ酸の異性体(鏡面体)と呼ばれる
左右のD体(dextro-rotatory)とL体(levo-rotatory) が似たような薬理作用、毒性を示す場合や、
一方だけが毒性を持つ場合があります。
また両体の作用、反作用が拮抗することで
効能が相殺されることもあります(ラセミ状態:racemic mixture)。
1960年代前後に腹痛、下痢止めの生薬となる天然素材成分を合成したところ
毒性がある異性体が合成されており、被害者が続出しました。
副作用データを隠ぺいした田辺製薬の不誠実が話題となった
整腸剤キノホルムによるスモン病(subacute myelo-optico-neuropathy:SMON)です。
今では合成医薬品開発には異性体のチェックが必ず実施されます。



5. 米国はサリドマイドの上陸を阻止
サリドマイド米国上陸を阻止したのはFDA(米国食品医薬品局)の
フランシス・ケルシー博士(Frances Kathleen Oldham Kelsey:1914-2015)。
シカゴ大学から薬理学博士号 (Ph.D. in pharmacology) を授与され
1960年にFDA入り。
医薬品審査官(reviewer)として100人を超える多数の犠牲者がでた
薬害事件を見事処理し、次に与えられたのがメレル社(Richardson Merrell)が
1960年9月8日付けに申請したケバドン(Kevadon)の審査。
ケバドンは精神安定剤、および、特に妊婦の悪阻(つわり:morning sickness)への
適用を指示した鎮痛剤であるサリドマイドの商品名。
すでにーロッパとアフリカの20カ国で認可されていましたが
ケルシーはその安全性について疑念を持っており、認可を保留するとともに
さらなる治験を要求。
薬理学者のケルシーにはケバドンの申請資料は「安全性を示す動物実験が不十分」。
神経系への副作用を記述したイギリスにおける研究を重視しており、
この報告についての追加情報を要求し承認を保留にしたといわれています。
ケルシーは薬物の中には血液胎盤関門を通過できるものがあることを
学んでおり、催奇性の疑いから、結局は米国内における販売認可を
拒絶し続けました。
 
その後に次々とサリドマイドの催奇性が実証されて彼女の主張が認められ
アメリカはサリドマイドの輸入販売を許可しなかったために薬害を免れました。
FDAはこの後に製薬業界の監督強化を行う法律を成立させています。

1962年にジョン・F・ケネディ大統領は、ケルシー博士に
「顕著な連邦文民功労への大統領賞」を授与しました。
2000年に名誉女性殿堂(National Womens Hall of Fame)入り
2005年にはFDAが彼女の名前を冠した年間賞
「Dr. Frances O. Kelsey Drug Safety Excellence Award」を創設。
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歴史が浅いバイアグラは化学合成物質ですから長期間服用の安全性は不明ですが、
その機能は窒素合成阻害酵素の阻害機能。
シトルリンが窒素合成の素材として機能し、レスべが窒素合成酵素を作り出す
機能と切り口は異なりますが、中枢神経を興奮させる媚薬、催淫剤と
一線を引く点では同じです。

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