ケン幸田の世事・雑学閑談(千思万考)
第九十六話:「火鉢・炬燵・囲炉裏と木炭」
2018/11/08
冬の暖の取り方として、昔の暖房器具は火鉢、炬燵、囲炉裏が主役で、そのエネルギー源としては、 煮炊き用燃料も含め木材が使われていました。 庶民は、薪や木くずなど安いものを使い、武家や裕福な町家は高級高額な木炭を、 料亭、遊郭、船宿、茶店は、業務用の木炭を使っていたようです。 因みに、木炭のクズや粉を集めて泥やフノリなどで練り、団子状にして乾燥させたものを 「炭団(たどん)」と言い、お世辞にも立派な“炭”とは言えない代物が、廉価版木炭モドキとして、 昭和の一般家庭でも使われておりました。 忠臣蔵の赤穂浪士が討ち入った時、吉良上野介が炭小屋の炭俵の陰に隠れていた物語からして、 格式高い高家には貴重な木炭が大量保有されていたことが分かります。 元来、木炭は戦略物資としての側面を持ち、武器である「刀」を造る原料の「鉄」、職人の 「刀鍛冶」鍛冶に用いる「木炭」を掌握することが、武将たちの要務だった訳です。 頼朝が鎌倉に幕府を開けたのも、砂鉄の産地に近く、伊豆の天城山林が木炭生産地だったからでは ないかと言われております。 金沢のしぐれをおもふ火鉢かな 室生犀星 ぼんのくぼ夕日にむけて火鉢かな 小林一茶 五つ六つ茶の子に並ぶ囲炉裏かな 松尾芭蕉 炉火赤し山のホテルに入りたれば 高浜虚子 ところで、燃料としての木炭は、煙や炎が少ないので、屋内で使用する火鉢やコンロ(しちりん)の 煮炊き用などに都合が良かったので、江戸後期から大いに普及しました。 中でも、江戸時代が生んだ、第一級の芸術品であり、現在に至っても、なお世界に誇る 木炭の最高傑作の「備長炭」は、ウナギのかば焼きや高級牛や魚の炭火焼き等で広く名を知られております。商品名の由来は、元禄時代、紀州の「備中屋長左衛門」がウバメガシ(ブナ科の高木の一種) を炭材として独自の製炭法(現在では和歌山県民族文化財指定技術)を考案したと言われ、 火持ちの良さ、火力の強さ、そして美しさが持て囃されています。 なお、今になっていろいろ解って来たのは、固く締まった焼き入れの具合は、遠赤外線効果を生み、 火力の安定が得られ、食材を焦げさせず、内部まで、むらなく熱を通すことが出来るだけでなく、 木炭そのものを消臭剤、除湿剤、電磁波防止用や、水の浄化、炭風呂、炊飯器投入で 消臭と旨味増し効果があるとか、固い炭の金属音を利用した風鈴や炭琴などにも活用されています。 蓄へは軒下にある炭二俵 高浜虚子 昔は,火事にならないという言い伝えを守って、暖房器具の使用はじめを初冬の亥の日とし、 武家は初亥の日に炉を開き、町家は、二番目の亥の日に炬燵開きをしたそうです。 炉びらきや雪中庵の霰酒 与謝蕪村 つくづくともののはじまる火燵かな 上島鬼貫 |
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