ケン幸田の世事・雑学閑談(千思万考)
第八十九話:史上初の米朝首脳会談
2018/06/11
 カナダのケベック州でのG7サミットが、トランプ米国起因の関税問題とロシア復帰提案で
予想通り大いに縺(もつ)れ、当のトランプ大統領が会議後半を退席後、首脳宣言を採択して終了しました。
米朝会談を前に、北朝鮮の核廃棄までは経済制裁を続行する、G8への復帰は見合わせる等では
一致を見ましたが、保護主義への闘いを継続するとした通商政策の理念がらみでは、
事後のカナダ首相トルドーの言わずもがなの発言に激怒したトランプが宣言の承認を拒否するなど、
禍根を残した異例のサミットでした。

会場のシャルルボアは、フランス文化の香りを残すカナダ最初の高級リゾート且つ豪華な別荘地であり、
筆者も一度訪れたことがありますが、大河セントローレンス河岸の絶景地であり、
グルメ料理も多彩で、芸術家も住むロマンチックな“家族旅行向きの名勝地”ですが、
会議の紛糾報道に遮(さえぎ)られ、開催地区の観光PR報道が揉(も)み消されてしまい、
地元ケベック州民や東部カナダPR当局は、さぞや、がっかりしたことでしょう。

さて、トランプが急ぎ飛んだシンガポールでの、史上初の米朝首脳会談が明日から始まりますが、
その行方が気がかりです。
何人かの知友から、事前の感想を求められましたので、取り急ぎキーボードに向かっている次第です。
 
世界最強大国の型破り大統領と、最貧の小国ながら核を保有し、実兄や叔父を惨殺した
独裁テロリストであり、超高級ホテル代まで無心する異星人的リーダーとが、直接顔を合わせて、
如何なる成果ある会談になるのか、単なる茶番劇に終わるのか、全世界の注目を浴びております。

気まぐれトランプ翁が巧言令色青年に愛想を尽かせて会談が決裂するのか、
それとも功を焦って大甘(おおあま)に触れ、金正恩の段階的非核化の巧言謀略に迷わされて
制裁緩和に踏み切るのか、あるいは、もう少し複雑で先送り的な玉虫色の合意でお茶を濁すのか、
いずれにせよ、会談の内容と進展次第で、我が国の拉致問解決に向けて、これに続く日朝会談への
展開が開ける契機となるのか、我が国としても目が離せない外交局面です。

ただ、ノーベル賞に直結するような北による核の全面放棄(CVID)とか、米軍の韓国からの
全面撤退というような理想的合意には、至らないものと思われますが、折角の首脳会談を持つ以上、
いずれかが“実”を取り、片方が“名”をとるとか、両者が何らかの花を手にする舞台を演出する
可能性だけは捨てきれないでしょう。
おそらく、今回の会談で決着を見るのではなく、この先へ向けて、事後の交渉を確約しての、
握手で会談を終えそうな予感がします。
 
米国の場合、議会の承認が条件となる「条約」は到底考えられませんので、両首脳による
合意発表とか共同宣言とかの域に留まると想定されますので、両国とも何らかの成果を発表したいのが
本音だとすれば、可能性として考えられそうなのは、「朝鮮半島の休戦条約の解消に向けての
平和交渉の出発点とする(休戦協定は、米国および国連軍十数か国と北朝鮮及び中国との間で
調印されているので、所詮先送りとはなりますが)か、北が(核保有、核技術を維持したまま)
まずは弾道ミサイル等当座の兵器を破棄し、対米(グァム島の基地を含め)核戦争を仕掛けない宣言の
見返りに、米国の対北軍事攻撃を起こさせないといった、両者の軍縮程度の落としどころを
計るのではないかと探られますが、非核化の工程、査察(IAEAと米軍人)都度の
見返り条件の詰めなどを考慮すると6~10年に亘る長期協定にならざるを得ないのが悩みの種でしょうか。

今次も、ボルトン安保戦略補佐官が同行する以上、そして今後とも、クリントン、ブッシュ、
オバマ外交が北の増長を許容してしまった手法とは異質の体質と理念を持つ
トランプ・アメリカが北朝鮮という小石に躓き、無分別な宥和(ゆうわ)姿勢に嵌(はま)ることだけは、
回避してもらいたいものです。
むしろ、米朝や米韓に割って入ろうとする独裁軍国主義中国とは、米中冷戦状態へはいりつつあり、
この先、中東問題の解決に欠かせない米露の協調が得られ、仮にも中東安定化に進むことがあれば、
極東のパワーバランスに変化が見られ、事によっては、安倍外交(日本)にも、道が開けるやもしれません。
 
我が国にとって最大の頭痛は、野党国会議員が現実から遊離したまま、
現下の極東安保に関し国益の最重要岐路にあることに無関心で、不毛なモリカケ論議に
現(うつつ)を抜かして、国会をモンスターPTA空間化させていることです。

米中の対立は、軍事面、貿易摩擦(WTO、知的所有権等遵法性も)
台湾旅行法(米台政府高官の交流促進)の三局面以外に、朝鮮半島外交への習の
介入・工作の排除が加味されるでしょうが、我が国の拉致問題解消が成るまでは、
在韓米軍の撤退だけは、急がないでもらいたいものです。
G7直前の安倍・トランプ会談で、このあたりの機密は織り込まれた筈ですし、
その前の安倍・プーチン会談でも、北の非核化までの制裁合意の効力にも期待しておきたい次第です。
なお、我々が海外へ耳目を向ける際、特に留意すべきなのは、今や世界は極端に狭くなりつつあり、
全地球上の動静がすべて関連し合って連動しており、一件無関係とも思える外交局面が、
裏で大きく繋がっているとか、次の展開の伏線であるという事象です。
 
オバマ政権によるイランとの核合意(抜け穴だらけだったと判明)を
トランプが離脱したこと(イランが北朝鮮と核技術や部品の融通等、裏で繋がっていたことを、
米・イスラエル諜報が掴んでいるらしい。
エジプトやクエート、UAEへの核拡散の未然防止)、イスラエル・テルアビブの
米国大使館をエルサレムへ移したこと、などは、単なる中東問題に留まる戦略ではなく、
南アフリカの核全面放棄、リビア方式、シリア、イラク、IS、クルド問題なども、
何らかの意味合いを持って米朝や米中、米露外交と絡んでいると捉えるべきでしょう。

中東の安保に関しては、米国国益からすれば、今や世界最大の産油国となり、
イスラエルが軍事的に兄弟となって、サウジ(パキスタンと核・兵器協定)との連携を強め、
米をバックにイランと渡り合えるようになった以上、居具合の悪いところから抜け出したいのが
山々でしょう。
手を引いた後を、プーチン・ロシアに託したいのが、トランプ政権の本音ではないかと見えてきます。
 
いずれにしても、米朝会談の行方は、日本にとっても、世界にとっても、大いなる
外交的、安保的、経済通商的な課題を内包しているので、第一回会談の結果如何を問わず、
今後とも目が離せません。
ついては、そのあたりを次稿で追跡して行く積りです。

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