癌の骨転移メカニズムの鍵はランクル(RANKL)
レスベが活性化を制御する
1. 骨は人体ネットワークの主要臓器 2. 新薬のターゲットはNF-kB(ニュークリアー・ファクター・カッパB核因子) 3. NF-kB( nuclear factor κB :カッパB核因子)とは 4. ランク(RANK:NF-κB受容体)とランクル(RANKL:NF-κB受容体結合物質) 5. 骨免疫学者らによる進行癌の骨転移メカニズム研究 6. ヒト型抗ランクル・モノクローナル抗体のデノスマブ(Denosumab) 7. NF-κB(カッパB核因子)の活性化を制御するIκBタンパク質 8. レスベが抑制するNF-kB(カッパB核因子) 1. 骨は人体ネットワークの主要臓器 山中伸弥博士が監修、解説したNHKの「骨の健康」TV放映は博士の専門分野だけに 説得力のあるものでした(2018年1月7日)。 骨には人体を支える骨格ばかりでなく「免疫力、記憶力、筋力、精力の強化」の役割があり 骨折、骨粗しょう症などの骨の異常が脳卒中や心筋梗塞、癌の発症、精力減退EDにまで つながることを「人体ネットワーク」の一つとして説明されましたが 「体中の臓器が互いに直接情報をやりとりすることで、私たちの体は成り立っている」という ことが平易に解説された番組でした。 山中伸弥博士が骨の健康促進で推奨した健康法は骨に力学的刺激(メカニカルストレス)を 与えること。 疫学的には広く知られていることとは言え、分子レベルでの解明はこれからの課題、 骨と血管との強い関連研究も進行中ですが、骨粗しょう症が動脈硬化によって引き起こされ、 動脈硬化の原因となる高血圧、糖尿病、慢性腎臓病などが骨を不健康にしていることに 通じます。 山中伸弥博士は「骨は人体ネットワークの主要臓器」と捉えていますが、現状で直面する 骨の健康の最大障害は「癌の骨への転移」と「骨粗しょう症」。 2. 新薬のターゲットはNF-kB(ニュークリアー・ファクター・カッパB核因子) 「骨粗しょう症」は次回にし、今回取り上げたいのは「癌の骨への転移」。 歯の矯正過程における骨形成研究をけん引している東京医科歯科大学の中島友紀教授らは 東京大学高柳 広教授らとのコラボで骨免疫学 (Osteoimmunology)を推進していますが ターゲットの一つが「癌の骨への転移」。 そこでテーマとなっているのが、 たんぱく質複合体の遺伝子転写因子NF-kB(ニュークリアー・ファクター・カッパB核因子) 「骨細胞が破骨細胞分化因子*ランクル(RANKL:NF-κB受容体結合物質)を強力に発現し 破骨細胞を分化誘導すること、 また、骨細胞に特異的なRANKL欠損マウスの作成により、生体レベルで骨リモデリングの開始が 骨細胞によって制御されていることを明らかにしました(高柳 広教授談)」 *ランクル(RANKL:receptor activator of NF-κB ligand) 3. NF-kB( nuclear factor κB :カッパB核因子)とは NF-kB(ニュークリアー・ファクター・カッパB核因子)は真核生物の細胞に含まれる たんぱく質複合体の遺伝子転写因子。 免疫細胞、脂肪細胞より産生し、癌(がん)、皮膚老化、生活習慣病に関与する 遺伝子転写因子として、この分野の研究者には広く知られた悪玉物質。 細胞の増殖、細胞の自然死(アポトーシス)、遺伝子転写など様々な現象に関わります。 これまでの研究ではNF-kB(カッパB核因子)は心臓血管病、糖尿病、癌、悪性腫瘍、 クローン病、関節リュウマチ、免疫不全など数多くの免疫系、炎症系の難病への関与が 示唆されています。 「カッパB核因子と線維芽細胞成長因子」 http://www.botanical.jp/library_view.php?library_num=566 4. ランク(RANK:NF-κB受容体)とランクル(RANKL:NF-κB受容体結合物質) ランク(RANK:receptor activator of NF-κB) とは腫瘍壊死因子(TNF)ファミリーに 属するNF-κB活性化受容体。 NF-kB(ニュークリアー・ファクター・カッパB核因子)を細胞に受け入れる窓口です。 破骨細胞前駆細胞に発現する癌の骨転移メカニズムに深く関与します。 NF-κB受容体のランク(RANK)は悪玉の受容体結合物質NF-kB(カッパB核因子)を活性化し、 破骨細胞分化やリンパ節の形成を誘導するランクル(RANKL:receptor activator of NF-κB ligand)と 結合しますが、ランクル(RANKL)は免疫細胞制御など生命活動に負の働きをする 悪玉受容体結合物質。 5. 骨免疫学者らによる進行癌の骨転移メカニズム研究 東京大学大学院医学系研究科の高柳広教授と東京医科歯科大学の中島友紀教授らは 矯正歯科の骨形成研究から破骨細胞の制御に注目し、歯周組織ではどの細胞が破骨細胞の 分化に必須なランクル(RANKL)の産生源なのかを探究。 歯周組織を構成する細胞集団の中で、骨細胞がランクルを高発現していることを見出しました。 グループはランク(RANK)が、乳癌患者の原発巣に強く発現することも見出し、 骨に発現するランクル(RANKL)がランク(RANK)とのシグナル伝達により 癌の骨転移を誘発することを、癌転移モデルマウスを用いて実証。 破骨細胞活性化原因の解明が進行がんの骨転移と骨粗鬆症の治療薬剤開発につながり、 癌の骨転移の治療に新たな方向性を示したといわれています。 中島友紀教授、高柳広教授がリードする「骨免疫学:osteoimmunology」は 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (AMED)などの支援を受けて新たな研究(下記)を続けています。 「骨代謝は、内分泌系だけでなく、免疫系のような他の生体制御系とも深く関連しながら制御されている。 本分野では、骨構成細胞による骨リモデリング制御の解明、骨と多臓器の連環システムの解明を 目指した研究を推進している。 特にゲノムワイドなスクリーニング法や遺伝子改変マウスを用いた解析を展開し、 分子生物学的な基礎研究から臨床応用研究まで幅広いテーマで研究を行っている(中島友紀教授 談)」 6. ヒト型抗ランクル・モノクローナル抗体のデノスマブ(Denosumab) デノスマブ(Denosumab)は受容体ランク(RANK)への悪玉受容体結合物質ランクル(RANKL)の 結合を特異的に阻害する分子標的薬(ヒト型抗ランクル・モノクローナル抗体)。 開発したのはカリフォルニア州(米国)で創業された世界一のバイオ製薬会社アムジェン(Amgen.Inc) 日本では2012年に第一三共製薬が発売、会社は新薬の効能を以下のように解説しています。 「ランクル(RANKL) の中和抗体として開発されたデノスマブ(Denosumab)は、臨床試験において 60~90 歳の骨粗鬆症女性における椎体,非椎体および大腿骨近位部の骨折発症を 抑制することが明らかにされている 破骨細胞の活性化には、腫瘍壊死因子(TNF)ファミリーに属するNF-κB活性化受容体(RANK)と そのリガンドのランクル(RANKL)とのシグナル伝達が関与していることが明らかになっている。 デノスマブは破骨細胞及びその前駆細胞膜上に発現するランク(RANK)へのランクル(RANKL)の結合を 特異的に阻害する分子標的薬(ヒト型抗ランクル・モノクローナル抗体)。 RANKL経路を介した破骨細胞の形成、活性、生存を抑制し、骨破壊に起因する病的骨折などの 骨関連事象(SRE:Skeletal Related Events)の発現を抑制すると考えられている」 「新抗がん剤開発のヒントはブドウレスベラトロールの機能解明: 長寿の酵素が癌遺伝子発現と脳血管障害を制御」 将来性抜群のヒト型抗ヒトPD-1 モノクローナル抗体 http://www.botanical.jp/library_view.php?library_num=404 7. NF-κB(カッパB核因子)の活性化を制御するIκBタンパク質 悪玉のNF-κB(カッパB核因子)は活性を制御する IκB(Inhibitory kappa B Protein:カッパB制御たんぱく質)とともに存在しているため、 通常は活性を示しません。 活性酸素、紫外線、切り傷など、なんらかの外的要因によりIκB(カッパB制御たんぱく質)が NF-κB(カッパB核因子)より切り離された時に活性を示すことが明らかになっています。 紫外線などによりIκB(カッパB制御たんぱく質)より切り離され、活性化された NF-κB(カッパB核因子)は、インターロイキン、腫瘍壊死因子(TNFα:Tumor necrosis factor)など 免疫に関わる悪玉サイトカイン(Cytokine)や、コラーゲン組織を切断、変形させる MMP(matrixmetalloprotease:皮膚基底酵素)など様々な遺伝子を誘導します。 例えば、癌(ガン)を誘導する分化脂肪細胞内の腫瘍壊死因子(TNF-α)は NF-κB(カッパB核因子)からIκB(カッパB制御たんぱく質)を分離させると 細胞の核に移動し、メッセンジャー・リボ核酸(mRNA)レベルでの遺伝子転写により 炎症に関わるサイトカインのIL-6 、COX-2を活性化します。 NF-kB(カッパB核因子)に誘導されるインターロイキン類、腫瘍壊死因子(TNF α)などの サイトカイン(Cytokine)は白血球などの免疫細胞から産生されますが、 脂肪細胞組織にも免疫細胞が存在し、これらの炎症にかかわる悪玉サイトカインを産生します。 悪玉サイトカインはインシュリン抵抗性を増し、糖尿病,高脂血症,高血圧,動脈硬化症の 原因ともなることが知られています。 (参照) *メッセンジャー・リボ核酸(Messenger RNA:mRNA): DNAから写し取られた遺伝情報に従い、タンパク質を合成する *サイトカイン(Cytokine):主として免疫と炎症に関わるホルモン様情報伝達物質 *腫瘍壊死因子(Tumor necrosis factor:TNFα) *脂肪細胞前躯体(preadipocytes):脂肪細胞(adipocytes)となる 株組織(a strain of human fat cell precursors)のこと。 *分化脂肪細胞(differentiated adipocytes):脂肪細胞が増殖する過程の細胞。 肥満は細胞が脂肪酸(トリアシルグリセロール)により肥大化し、数が増えていく、 即ち分化脂肪細胞が増殖することが原因と考えられています。 *インターロイキン(interleukins:IL-1、βIL-6など) :代表的な炎症の原因物質(サイトカイン) *シクロオキシゲナーゼ-2(cyclooxygenase-2:COX-2) :炎症に関わる酸素添加酵素 (この項は他の記事とオーバーラップしています) 8. レスベが抑制するNF-kB(カッパB核因子) この悪玉要素の多い物質の制御に関して、 「NF-kB(カッパB核因子)の活性をブドウ・レスベラトロールが抑制する」という研究が 米国で発表されて話題となっています。 ブドウ・レスベラトロールは癌(がん)、心臓血管病、糖尿病ばかりでなく、 美肌の維持、再生にも働く、多機能ポリフェノールとして期待されている抗酸化物質。 コラーゲンの体内生成にも深くかかわります。 「ブドウ・レスベラトロールが寄与するコラーゲンの体内生成: NF-kB(カッパB核因子)の功罪」 http://www.botanical.jp/library_view.php?library_num=542 (広告)
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