食在亜細亜:アジアの生鮮食材
旧フランス領インドシナの食文化(12):ベトナムの強精強壮海産物御三家:ナマコ、ヒトデ、タツノオトシゴ(前編)
2014/07/04
1.ナマコ(Apostichopus japonicus :sea cucumbers) 2.ナマコは朝鮮人参に匹敵する健康食品 3.2000年代にアジアでナマコ・バブル 4.アジアのナマコバブルにフロリダ州が乱獲禁止令 5.日本のナマコ産業は輸出が柱 6.ヒトデ(人手、海星:star fish)の薬効 (タツノオトシゴ以降は後編として分割掲載します) 7.タツノオトシゴ(竜の落とし子:sea horse:Hippocampus) 8.タツノオトシゴの近縁種:タツノイトコ、タツノハトコ、ヘラヤガラ、ヘコアユ 9.タツノオトシゴのテルペノイドとサポニン 10.トッケイヤモリ(オオヤモリ:Linnaeus): ヤモリが加わり最強の強精強壮セットを構成する。 南北に細長いベトナムはどの地域も地理的に外敵にさらされます。 幾たびも焦土化した炎天の土地に住み続けてきた国民は強靭、頑健。 その体を作る滋養強壮に関しては我々の想像もつかないほどの 執念があるように見えます。 食生活は永年侵略を続けてきた(現在も?)中国の医食同源が強い影響を与えています。 中国発の滋養強壮素材は日常的な食生活のベースとなるメジャーな食材から、漢方薬店で売られる 希少性の高いなマイナー素材まで、ベトナムの市場には数えきれないほどあります。 ただし市場や専門店で売られる強精強壮素材は玉石混交。 商人が強壮のイメージを作りやすい生物(トラ、サソリなど)を利用して フィクションにより効能を作り上げてきたものも多いようです。 漢方薬自身も劇薬が多々あり、効能、安全性が確認されていない素材が 多々ありますから十分な注意が必要です。 1.ナマコ(Apostichopus japonicus :sea cucumbers) 何種類ものナマコが販売されているが大衆的な乾物屋さんは 都会のバブル価格とは無縁. キロ1万円以下の乾燥ナマコがほとんど.(ニャチャン:ベトナム) ナマコ(生子:sea cucumbers:) は 棘皮動物(きょくひどうぶつ:Echinodermata). 学名はApostichopus japonicus、英名はいろいろありますが 代表的なのは海のキュウリ(sea cucumbers) 長い海岸線を持つベトナムは滋養強壮食材を海に求めます。 世界の海産乾物食材御三家はフカヒレ(鱶鰭)、アワビ(鮑)、ナマコ(海鼠). ナマコはベトナムの強精強壮海産乾物御三家(タツノオトシゴ、ナマコ、ヒトデ)の 一角も占めます。 ナマコ、タツノオトシゴ、ヒトデを御三家に挙げたのは希少な商品でなく、 市場で容易に手に入ること。 中枢神経に働きかける催淫効果を求めるものでなく、内分泌、血流促進に機能する オーソドックスな滋養強壮を期待できる素材だからです。 香港市場で高値取引されるナマコもベトナムでは半値以下。 超高級品の日本産などとは一線を画した大衆向け商品が沢山あります。 ナマコは日本、中国で食用にされるマナマコをはじめ、1,000種を超える種類があります。 食用にされるナマコは数十種類といわれますが、人気の筆頭はマナマコ。 中国系人は乾燥したもの(イリコ)を古くより食してきました。 海鼠とも呼称される見た目がグロテスクなナマコは日本では敬遠する人が多いですが、 大陸沿岸部中華料理の定番. 薬膳料理でも強精強壮食材として古くから愛用されています。 2.ナマコは朝鮮人参に匹敵する健康食品 ナマコは多種のアミノ酸、ミネラル、コラーゲン、コンドロイチンが豊富ですが 強精強壮に働くアルギニンと亜鉛がとくに目だちます。 加えて各種のサポニン、糖脂質のガングリオシドが滋養強壮に働くために 健康食品に関心が強い中国系人が愛用しています。 中国名の海参(カイジン:ハイシェン)は海の朝鮮人参に因んでいるようです. ナマコ・サポニンばかりでなく朝鮮人参と共通するいくつものサポニンが含まれるからでしょう。 朝鮮人参は各種のサポニンが豊富なことで知られる植物。食材としても永年の歴史があります。 「サポニン(saponin)とは:サポニンの種類と生薬」 一般的なナマコ料理で供される程度の量は1,000年を超える食材としての歴史があり、 問題はないとは思いますが有効物質の一つといわれる ナマコ・サポニン(ホロスリン:holothurin)はナマコが魚に捕食されるのを防ぐ有毒物質。 基本的に人間には毒性が薄いといわれますが、研究者によれば、熱帯産の一部は 人間にも毒性があると言われます。 このサポニンが滋養強壮、強精に効果的なのでしょうが、その安全量は定かではありません. 食べ過ぎないことでしょう. サポニンは非常に多くの種類がありますが、いずれも界面活性作用を持つ物質. 悪玉脂肪酸が血管壁にこびりつくのを防ぐといわれます。 東南アジアではナマコ石鹸がお土産用に売られていることがあります。 「性ホルモン、ステロイドを合成するトリテルぺン」 さすがに大都会。大衆市場の乾物屋さんは生産地と種類のバラエティーが豊富。 超高価な乾燥ナマコも売られています。 (ホーチミン市:ベトナム) 3.2000年代にアジアでナマコ・バブル ナマコの需要が大きいのは中国と中国系人が多いアジアの主要都市。 朝鮮人参に匹敵する健康食材として日本人には考えられないほど人気が 高い食材です。 ニューギニア、フィリピン、インドネシア、日本など数十を超える数多くの国が輸出を しています。 乾燥ナマコの取引価格は2000年ごろまでは上物でキロ1万円くらい。 それが中国経済の発展とともに2005年ごろには5倍くらいに跳ね上がり、中国経済バブルの ピーク時には10倍以上にもなったそうです。 現在でも取引市場の中心地、香港では最上級の北海道産が5-8万円/キロはすると思いますが 今後は中国の需要減、各地での養殖による増産などによる競争激化が予想されるため、 急落を予想する人もいます。 また日本からの輸出も乾燥ナマコから塩蔵ナマコにシフトされ始めているようで、 最大の差別化だった乾燥技術の優越度が薄れてくることが懸念されています。 4.アジアのナマコバブルにフロリダ州が乱獲禁止令 先月の4日(2014年6月)にフロリダ州の フロリダ州魚類野生生物保護局(FWC:Florida Fish and Wildlife Conservation Commission) がナマコの漁獲制限令をだしました。 アメリカには食習慣がありませんが、アジアのナマコ価格が10年で10倍近く高騰した ことに目を付けたフロリダの業者が輸出用に乱獲をはじめ、昨年(2013年)は 前年のナマコ漁獲量の4倍も捕獲。 ナマコにはいろいろな種類がありますが、売れる種類は限られます。 絶滅を恐れたフロリダの自然を守る保護団体が規制を働きかけたようです。 今後は1回の漁業で1隻200匹に限定されるそうです。 5.日本のナマコ産業は輸出が柱 日本は古くよりナマコの主要品種マナマコの産地. 江戸時代より乾燥ナマコの輸出が活発だったといわれます。 日本でのマナマコは赤、青、黒など色で分けられており、価格も地域や 消費者の人気順にそれぞれ。 日本では内臓の珍味コノワタを含め、刺身として生食が主. なぜか人気が薄い国内需要はそれほど大きくありませんが、乾燥技術に秀でているため 世界の主要ナマコ産地として現在でも10,000トンを超える漁獲の大部分をアジア各地に輸出. 中国バブルのピーク時には国内を含めて200億円を超える収入がありました。 北海道産乾燥ナマコは最高品質品として香港市場で高値取引されています。 近年は海外価格の高騰とともに日本の主要輸出水産物ベスト5にコンスタントにランクされています。 主要生産地はトップが北海道。2位3位は青森県、山口県。 訪問したことはありませんが、菜の花で有名な青森県の横浜町では「なまこ祭り」があるそうです。 6.ヒトデ(人手、海星:star fish)の薬効 ヒトデは雲丹(うに:Echinoidea)やナマコ(Holothuroidea)と同類の 棘皮動物(きょくひどうぶつ:Echinodermata). 名の由来は人手.光る星に似ていることから中国系や欧米では 海星(star fish, sea star, ?toile de mer). 可食部分の多いナマコのような食材とはなりませんが、突起部分を開いて 少量のウニ様内臓を食べる人もいます. 生薬とみなされてはいないようですが、中国、ベトナムでは 強精強壮食品、糖尿病、血栓対策としての歴史があり乾燥粉末が愛用されています。 その成分はナマコ同様にサポニン、ガングリオシドといわれます. 脳の灰白質(かいはくしつ)などに含まれるスフィンゴ糖脂質のガングリオシド(ganglioside)は 神経伝達や血流に関与する物質ですが、その多様な機能は未知の部分が多々あります. ヒトデは一般的な食材の歴史がなく、強い作用を持つヒトデサポニン、ガングリオシドは いまだに明解な安全性が確認できていないようです。 一般の方は常用しないことが賢明でしょう。 繁殖する場所では無尽蔵といえるくらい豊富ですから、その抗菌性を 畑の有害微生物避けに利用する沿岸地域もあるようです。 ちなみにサンゴ礁を食い荒らすオニヒトデは毒性があり触ると刺されます。 日本でもヒトデを食べる地域がありますが、多くは観賞用. 水族館タッチ水槽の生きているヒトデは人気者. 様々な形状は子供の好奇心を誘います。 (生鮮食材研究家:しらす・さぶろう) |
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