食在亜細亜:アジアの生鮮食材
タイの魚市場その1:食用魚のチャンピオンは仁魚(プラーニン)
2014/01/15

タイの魚介小売、卸売り市場では、なまず類(英名:catfish)とティラピア(テラピア:Tilapia)類がもっともポピュラーであり、鱸(スズキ:バラムンディー)がそれに続く。
いずれも淡水、汽水域で漁獲、養殖され、小売でキロ100円から200円。

ナマズとともに国民的人気を持つのが上の写真ティラピア(Tilapia)。
タイ語でプラーニン(仁魚)と呼ばれている。
鶏肉と価格で対抗できる数少ない蛋白源の魚類がナマズとプラーニン。
プラー・ニン(仁魚)渡来の経緯は、魚に関心のあるタイ知識人なら誰でも知っているといわれる。
プラーはタイ語で魚。仁は今上陛下の御名(明仁)に因んだもの(ナイルという説も)。
半世紀ほどまえに陛下(当時は皇太子殿下)からタイ国王に贈られたいきさつから、ニン(仁)が通称となったらしい(国王が名づけ親とも言われるが未確認)。

 

日本ではイズミダイなどと呼ばれるアフリカ・ナイル河原産の外来魚
(ナイル・ティラピア:Oreochromis niloticus)

 

 

 

淡白ながら、美味しい白身に要求される脂肪分が豊富で焼き魚、揚げ魚に耐えうる。
流通による劣化が遅い(生命力が強く、かつ腐敗の足が遅い)ために弾力も維持されている。
高級魚(ハタ類、ヒラアジ類など)と比較するのは可愛そうだが、超低価格の割には美味しく、何よりその由来が評価されている国民魚。

大衆食堂で「中国風煮魚」「タイ風煮魚」のように特定の魚名がメニューに書いて無い料理はほとんどがプラーニン

イズミダイ(通称)はタイよりやや早く、半世紀以上前に日本に導入された。
温水が必要なために鹿児島の温泉地域で養殖され、数十年前は城山ホテルなどで「タイの薄作り」と称して安価な刺身が提供されていた。
食の偽りが詐称とされずに、ごく当たり前の慣習だった頃(?)の話。
鮮度低下が遅いために、薄作りはコリコリした弾力を楽しむことができるが、鯛やヒラメの弾力とは異なる硬さがあり、香りも全く異なる(ベステル・チョウザメの刺身に似ている)。
刺身では養殖魚独特の嫌味な脂肪分が感じられるが、養殖真鯛とは異なった脂肪の味覚。
おいしい白身魚が豊富な日本で定着出来ないのは当然だろう。
最近ではその旺盛な繁殖力で有害外来魚に指定されている。

一匹350gから500gくらい。一般的に魚介類はキロ単位だが、国民魚は2匹、3匹、キロと売り方も様々。
たまには下記写真のように「活け」もある。(バンコクの大衆市場)

スーパーで売られるプラー・ニン(仁魚:ナイル・ティラピア:Oreochromis niloticus).とにかく安い.

 

 

写真上)
プラー・ニン(plaa・nin)の交配種(ND 56 Tilapia)
プラー・タブティム(Pla Tubtim:ルビー色の魚)
タイの農産系大財閥チャルーン・ポーカパン(Charoen Pokphand Group )が開発。
塩焼き用に下処理したものも販売されている(写真下)
プラー・タプティムは国民魚のプラー・ニンに較べ、スーパーでは1.5から2.5倍近い価格
キロ98バーツ(約280円弱)から120バーツはする(パタヤの高級スーパー)

タイは長い海岸線をもつわりには歴史的に大規模な沿岸、近海漁業が発展していない。
なぜか定置網を見ることも少ない。都会で食する魚の中心は淡水魚、汽水魚ばかり。
タイのたんぱく質摂取は安価な鶏肉が主体で豚肉がそれに続く。
マレーシア寄りの南部では日本、中国など海外資本による大規模漁業や、加工工場があるが保冷流通の問題もあり、輸出が主力。国内に出回る魚は少ない。
一般の沿岸部では海産魚介類のウェイトがやや高くなるが、魚は開き、フィレ(おろしたもの)の揚げ物、干物が中心。
一般家庭で日本のように海産魚類を丸物を鍋、煮付けにすることは少ない。大部分の新鮮魚介は高価で大衆価格ではないから。
地元民の海産漁業は大型の漁船が不要な、銛(もり)や小規模な網漁。貧困ゆえに造船出来ないことが最大の理由だろう。小船の漁では大人口を賄う漁獲能力は無く、一本獲りされたハタ(ガルーパ)などの高級魚は富裕層対象に小売りされる。
カツオなどの沿岸回遊魚を市場、スーパーで見ることは少ない。
ハタなど高級海産魚は高級スーパー、デパートやオートーコー小売市場(バンコク)などでは数を見ることができるが、クロン・トゥーイ(バンコク)など各地の大衆小売市場に、出荷されるのはごくわずか。
卸売り市場で取引されることは、さらに稀。

写真上)バンコクの卸売り市場では選別場所へプラー・ニンがゴミのようにレーキで押し込まれ、血だらけ.天皇陛下由来の魚は大事にしてもらいたい。
コンクリート土間に投げ出された魚は写真奥で選別される。とても鮮魚の取り扱いとは思えないが、プラー・ニンは鮮度低下が遅いのが救い。
バンコクの卸売り市場へトラックで搬入される国民魚のプラー・ニン類は養殖ばかりではなく、汽水域の漁獲なのか大小の海水魚が混入し、その選別も行われている。(写真下右)

市場はチャオ・プラーヤ河に面しているが時代とともに養殖場からの水運はほとんどなくなりトラックに。

写真上)魚種、コンテナ数、価格を整理する事務担当者はベテランばかり。
値付け担当者と素早い連携で処理している.種類ごとに値づけを仕切る担当者は一人。
魚に集中するその目は鋭い。

写真上)新旧のコンテナーが混在するところがタイらしい。

写真上)砕氷場。やっと物流面で鮮度劣化への配慮がみられるようになった。切断機は中古なのだろう。
かなり古びている。どちらかというと鮮度劣化より腐敗防止なのかもしれない。

(生鮮食材研究家:しらす・さぶろう)

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