オメガ3脂肪酸のニュースと解説
天然オメガ3脂肪酸の抗炎症メカニズム:脂質メディエーターのレソルビン(Resolvin)とは
2017/11/25
1.米国厚生省のサポートで始まったオメガ3脂肪酸の抗炎症性研究 2.レゾルビン(Resolvin)の窒素合成作用 3.脂質メディエーターとしてのレゾルビン 4.期待されるレソルビン(Resolvin)研究の進展 1.米国厚生省のサポートで始まったオメガ3脂肪酸の抗炎症性研究 魚油の成分で知られるオメガ3脂肪酸(EPA/DHA)は血液サラサラの表現で知られますが、 血管の異常収縮を防ぐ作用、炎症を抑える詳細なメカニズムは明らかではありませんでした。 2009年に発表された論文で「オメガ3脂肪酸がリュウマチ性関節炎などの炎症改善に どのような働きがあるか」をテーマにしたのは米国厚生省にサポートされた関節炎研究チーム。 チーム構成はロンドン大学クイーン・マリーの免疫薬学部教授モーロ・ペレッティ教授(Mauro Perrett)と ハーバード大学医学部の仲間。 オメガ3脂肪酸が作る生理活性脂質として知られるレソルビン(Resolvin :Rv)の作用機序発見を ターゲットに研究を進めました。 レソルビンは体内でオメガ3脂肪酸のEPAおよびDHA、DPAにより生成され、疫学的には 炎症を制御する中心的物質であろうことが知られていましたが、作用機序は明らかではありませんでした。 チームの研究は我々の体が魚油のオメガ3をレソルビンに変換し、どのように炎症を減らすのに 役立てるかのメカニズム解明。 このレソルビンは少量で大きな効果が得られる強力な作用を持つ免疫物質といわれます。 物質の機能解明は人工合成によって大きく前進しますが、レソルビンは2008年には 人工合成が成功しており、オメガ3脂肪酸の持つ抗炎症作用などの中心的な役割を果たす物質として 各方面で研究が続けられていました。 新薬開発につながる最初のメカニズム発見は関節炎研究チームにより2009年10月末の サイエンス誌に発表されました。 *関節炎研究チームの研究は米国厚生省(the National Institutes of Health)の 関節炎研究キャンペーン(Arthritis Research Campaign)と 英国信託財団の*ウェルカムトラスト(the Wellcome Trust.)がサポート。 *ウェルカムトラスト:富豪のウェルカム氏が作った医療関係の研究をサポートする財団。 2.レゾルビン(Resolvin)の窒素合成作用 関節炎などで炎症が激しくなるのは体の免疫力が間違って健康な組織を攻撃すること、 すなわち白血球が血管内皮(endothelium)にこびりつくことです。 関節炎研究チームの 実験で解明されたのはレゾルビンD2が内皮細胞で少量の窒素を合成すること。 レゾルビンD2は内皮細胞に白血球がこびりつくのを防ぎ炎症を抑えることが判りました。 これは魚油のオメガ3脂肪酸がタイプの異なる様々な炎症に役立つことを説明します。 「天然ブドウの抗酸化成分が網膜構造を護る: 萎縮型黄班変性症も酸化ストレスによる損傷」 http://www.botanical.jp/library_view.php?library_num=486 3.脂質メディエーターとしてのレゾルビン プロスタグランディン、ロイコトリエン、ヒスタミン、内因性カンナビノイドなど 生物活性(生理作用)を持つ脂質は*脂質メディエーター(mediator)とよばれ、 悪玉、善玉の両作用がありますが、主として細胞外に 放出され、他の細胞の 細胞膜受容体に結合することによって作用します。 レゾルビンは善玉の脂質メディエーターです。 *「サラダ油の悪玉アラキドン酸から作られる生理活性物質(ケミカル・メディエーター)」 http://www.botanical.jp/library_view.php?library_num=412 近年に鍵穴となる*G蛋白質共役型受容体(G protein-coupled receptors:GPR)の 全容が明らかになり始め、鍵となるレゾルビンの脂質メディエーターとしての解明が 一気に進んでいます。 *「2012年のノーベル化学賞を受賞:G蛋白質共役受容体の構造解明とは?」 http://www.botanical.jp/library_view.php?library_num=193 関節炎研究チームによりレソルビンのタイプRvD2が、鍵(リガンド)として体内の感染防御に機能する 顆粒白血球(leukocytes)細胞の鍵穴であるG蛋白質共役型受容体(GPR18と名付けられました)に 結合することが発見され、オメガ3脂肪酸の抗炎症機能が細胞レベルで明らかになりました。 これまでもDHAなどが直接の鍵(リガンド)として鍵穴の受容体に結合するだろうという研究が 進んでおり、そのルートもある(?)ようですが、GPR18の発見はより明解でインパクトの 強いものでした。 当初実験に使用されたのはレソルビンD2(RvD's2)でしたが、その後、レソルビンは 成因ごとに細分化されて研究が進められています。 DHA, EPA, DPAなどオメガ3脂肪酸のタイプで異なるレソルビン。 同タイプの中も細分化されて、主要なものだけでもDHA由来のレソルビンRvD's(1から6まで分化)、 EPA由来のレソルビンRvE's(1と2に分化)、またアスピリンや*スタチン系のドラッグが 関わり産生するDHA由来のレソルビンAT-RvD's(Aspirin-Triggered resolving D's )があります。 *スタチン系:メバロチンなど*HMG-CoA還元酵素阻害薬の総称.悪玉コレステロール値低下に使用。 *「アスピリンの鎮痛作用と脳心血管病の予防作用: 痛みと炎症の原因物質」 http://www.botanical.jp/library_view.php?library_num=179 *HMG-CoA:(hydroxymethylglutaryl-CoA:ヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼ) (成因と機能は専門的ですので省略) 「慢性化する生理的炎症を軽減する天然魚油のシス型オメガ3脂肪酸」http://www.botanical.jp/library_view.php?library_num=139 疫学的手法で分子レベルでの解明を目指したグループ 4.期待されるレソルビン(Resolvin)研究の進展 レソルビンD2(RvD's2)の機能は多様な関節炎(arthritis)の炎症を予防し、治療するだけでなく、 敗血症(sepsis)、脳梗塞など、炎症を起因とする様々な疾患予防にも役立つことが期待されています。 (Resolvin D2 is a potent regulator of leukocytes and controls microbial sepsis) 敗血症はセプシス(sepsis)とよばれ、細菌に引き起こされる全身性炎症反応症候群。 高齢者社会となり、感染症や生活習慣病で免疫力が低下した患者が、敗血症の院内感染で死亡する ケースが急増しています。 最も大きな利点として期待されるのは、これまでの抗炎症医薬品と異なり、レソルビンD2の 活性化ならばステロイドなどのように免疫機能を損なわないことです。 レソルビンを受け入れる鍵穴(G蛋白質共役型受容体)を不活性化させる物質もあります。 目的達成にはレソルビンの活性化とともに受容体の活性化も必要ですから、 研究のより進展が望まれています。 初版: 2013年10月31日 改訂版:2017年11月25日 |
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