アジア民族はⅡ型糖尿病が発現しやすい民族として知られ 世界糖尿病連盟 (IDF)の調査では現在のアジアの患者は約7,830万人。 2040年には1億4,000万人を超えると予想されています。 世界のⅡ型糖尿病患者が約4億人強に対し日本には約450万人. 同数に近い予備軍が存在するとみられていますから人口比(1.5%)から見れば約2%. 医療先進国としては少ないとは言えません。
1.天然のオメガ3が炎症を軽減する作用機序の探求 2.オメガ3脂肪酸(EPA/DHA)は、どの経路の炎症にも抗炎症効果を持つ 3.Gタンパク質共役受容体のGPR120とGPCRsとは 4.GPR120受容体を持つマウスと欠いたマウス 5.オレフスキー(Olefsky)教授のコメント
1.天然のオメガ3が炎症を軽減する作用機序の探求 天然の魚油には抗炎症作用があり、糖尿病に対しても素晴らしい働きをすることが 知られていますが、どのように作用して、効果的な機能を発揮するのかを 説明した人はいません。 2010年9月3日に発行された米国のセル・ジャーナル(the journal Cell:細胞ジャーナル)で、 肥満マウスを使い、オメガ3脂肪酸(EPA/DHA)が炎症を遮断し、 インスリン感受性を促進させて糖尿病を防ぐ、その作用機序に関する報告がありました。「GPR120はオメガ3脂肪酸の受容体として抗炎症、インスリン感受性促進を仲介する」 「GPR120 Is an Omega-3 Fatty Acid Receptor Mediating Potent Anti-inflammatory and Insulin-Sensitizing Effects:Jerrold Olefsky:the University of California San Diego)」 報告をしたのはカリフォルニア大学サンディエゴ校の オレフスキー教授(Jerrold Olefsky:the University of California San Diego) 天然のオメガ3脂肪酸(EPA/DHA)が炎症を軽減する作用機序の探求は 脂肪組織などに存在するGPR120(脂肪酸の受容体)に的を絞って行われました。
2.オメガ3脂肪酸(EPA/DHA)は、どの経路の炎症にも抗炎症効果を持つ 結果はオメガ3が(これまでに探求した物質の中で)最も大きな消炎効果を持つことでした。 特筆すべき成果は、炎症にはいくつもの発症経路がありますが、 天然の不飽和脂肪酸オメガ3はどの経路にも作用することが解ったことです。 肥満体の脂肪組織には慢性的な炎症があり、それが原因となってⅡ型糖尿病、 代謝異常が起きることが知られています。 炎症には様々な原因がありますが、炎症発現場所には免疫細胞が集まり防御反応を示します。 このときに幾つかの経路を経て*免疫系サイカイン(cytokine)の 炎症物質インターロイキン(interleukins)を産生します。 インターロイキンはインスリンの分泌にも関係する膵島細胞で産生することもあり、 インターロイキンの阻害は、炎症阻害とともに糖尿病治療につながることが知られています. *サイトカインとは免疫情報を伝達するたんぱく質. *受容体(receptor)とは広い意味で器官、分子を指す場合がありますが、 狭義では細胞膜上で特定物質を細胞内に受け入れる鍵穴ともいえる蛋白質.
3.Gタンパク質共役受容体のGPR120とGPCRsとは GPR120は医薬品開発でターゲットの一つとなっている Gタンパク質共役受容体(G protein-coupled receptor :GPCRs)とよばれる グループの一つです。 天然オメガ3のドコサヘキサエン酸(DHA)など長鎖不飽和遊離脂肪酸に特異的に 反応、受容します。 オレフスキー(Olefsky)教授はGR120が見つかった 抗炎症免疫細胞(inflammatory immune cells)の マクロファージ(Macrophage:貪食細胞)と脂肪組織に焦点を絞りました。 (免疫細胞の主体は白血球で、マクロファージ、リンパ球、顆粒球から構成されています
4.GPR120受容体を持つマウスと欠いたマウス オレフスキー(Olefsky)教授はGPR120受容体を欠いたマウスを使って 実験を繰り返しました。 細胞の炎症消去を目的とするなら、その方法がベストと考えたからです。 GPR120を欠いたマウスが高脂肪食により肥満となった時には、オメガ3で治療しても、 あらゆる炎症の兆候が起きしまい、糖尿病になるインシュリン抵抗性が進行していました。 オメガ3は役立たずだったわけです。 同じくオメガ3で治療したGPR120を持つ普通のマウス群の肥満は進みましたが、 炎症防止に対しては大きな効果がありました。
5.オレフスキー(Olefsky)教授のコメント オレフスキー(Olefsky)教授は「オメガ3はマクロファージが体組織に変換するのをブロックすると 思われるが、まだまだ不明点が多く研究余地がある。」 「しかしながら作用機序が未明とはいえ、すでに多数の人が天然のオメガ3を含む魚油や市場に出回っている オメガ3サプリメントで(炎症改善を)補っているのも事実」 「天然オメガ3の抗炎症性、インスリン増加能力は話題(2010年)となっている糖尿病治療薬の アバンディア(商品名:Avandia)(薬品名:Rosiglitazone)をはるかに超える」、と結んでいます。 (アバンディアと比較したのは、この医薬品が強い副作用を持ち、心臓血管病を促進するという説が 有力となっているからと思われます) また、「天然のオメガ3にはGPR120を活性化し、抗炎症に非常に良い働きをする、 なにか小さな分子があり、それが大きな働きをしている可能性がある」とも述べています。 初版:2010年9月 改訂版:2015年10月 |