健康と食品の解説
長寿社会の勝ち組になるには(その25):
ポテトのクロロゲン酸とポテトスープの健康度:アヒアコとヴィシーソワス
2017/06/09


ナス科ナス属のジャガイモ(Solanum tuberosum L)は同じナス科に属する
ナス、トマト、トウガラシの近い親戚.花や果実は非常に似ています.
すべて南米のアンデス高原あたりがルーツといわれます.



1. 世界の二大ポテト(ジャガイモ)スープはアヒアコとヴィシーソワス
2. ジャガイモは遠洋航海と戦場に必須の携行品
 軍艦の和食を洋食に変えた高木兼寛海軍軍医総監
3. 日本人は欧米人に較べジャガイモが少食
4. ジャガイモの有用性には代替品がほとんどありません
5. アヒアコ・ボゴタ―ノ(Ajiaco Bogotano )
6. ヴィシーソワス(Vichyssoise Soup)

7. アヒアコ(Ajiaco)に使用するジャガイモは3種類(Criolla,Paramuna,Sabanera)
8. アヒアコの香采グァスカス(guascas:galinsoga parviflora)とは





1. 世界の二大ポテト(ジャガイモ)スープはアヒアコとヴィシーソワス
ジャガイモは玉ねぎと並んで、世界で大量消費されるチャンピオンクラスの
スーパー健康食材.
米国農務省では(手前味噌ながら)健康維持に必要な全てといえる
成分がジャガイモとミルク(牛乳)を使用した料理メニューで得られ、
その相性の良い味と健康度が抜群に優れていることを強調しています。
「The US Department of Agriculture has stated
that “a diet of whole milk and potatoes
would supply almost all of the food elements necessary
for the maintenance of the human body.”」
ポテトとミルクを使用した主要料理はマッシュドポテト、ポテトグラタン、
クラムチャウダー、ヴィシーソワスなどが著名。

(写真上)
ミルク・マッシュドポテト、海老、ケチャップ・ライスのグラタン.
ポテトグラタンは海老、ホタテ、お米などが定番ですが、
二枚貝、サーモン、チーズ、鶏肉、野菜も使われる応用範囲の広い調理


ジャガイモはニンニク、胡椒、トウガラシなどのスーパー健康香辛料とは絶対消費量が
大きく異なり、健康への寄与は絶大です.
ポテトは多種多様なポリフェノールを含みますが、健康度の高い主要ポリフェノールは
クロロゲン酸とフェルラ酸。
赤紫の品種はそれに加えてアントシアニン類が豊富。

「健康長寿達成にはナスのクロロゲン酸ポリフェノールが必須」
http://www.botanical.jp/library_view.php?library_num=554
 コーヒーやジャガイモのクロロゲン酸とは異なる働きをする
ナスのクロロゲン酸.

健康志向の拡がりでスープ調理が脚光を浴びていますが、ポテトスープは
万病の元となる高血圧、動脈硬化対策に最良の選択。
ポテトスープはクラムチャウダーが大衆的ですが、米国外での拡がりは限られます。
世界的によく知られた二大ジャガイモスープといえるのは
コロンビア発のアヒアコとニューヨーク市発のヴィシーソワスでしょう.
健康度を議論するならばこの二つは競うことはありません。
体が必要とする栄養素を完璧に摂取できるのはミルクが加わるヴィシーソワス。
認知症、パーキンソン系疾患、癌(がん)、高血圧症、動脈硬化対策ならばポリフェノールの
クロロゲン酸、フェルラ酸、アントシアニン、タマネギのケルセチンが加わるアヒアコです

2. ジャガイモは遠洋航海と戦場に必須の携行品:
  軍艦の和食を洋食に変えた高木兼寛海軍軍医総監

大航海時代から欧州船舶の長い航海にはポテト(ジャガイモ)が必須の食材でした.
またナポレオン時代の戦地にもジャガイモは必須の携行食材.
有用性の詳細は不明でしたが疫学的にジャガイモの効能が知られていたからです.

医学が遅れていた日本では明治中期の軍艦航海で脚気罹病者や病死者が乗員の3分の1も
発生する原因が永らくわかりませんでした。
イギリスで医学を学んだ海軍の高木兼寛(たかぎかねひろ:1849年‐1920年:海軍軍医総監)は
外国軍艦に脚気が皆無に近いこと、日本軍艦も寄港中は脚気がなくなることから
艦船の伝統的和食生活が元凶と推定.
ダブルブラインドテスト(洋食だけの艦と伝統的な和食の艦と2艦が長期間並走航海して
患者の発生数、病死者数の実態を比較するテスト)の実施によって脚気皆無だった洋食には
圧倒的な量のビタミン類が存在することを確認しました.
永らく、ドイツで学んだ陸軍の石黒忠悳(いしぐろただのり:1845年‐1941年:陸軍軍医総監)
森鴎外(もりおうがい:1862年‐1922年:陸軍軍医総監)の脚気細菌説と賛否議論が
続いていたのは有名な逸話です.
その洋食材の中心が長期航海に耐える保存性の良いジャガイモ.
高木兼寛総監推奨の海軍カレーにはたっぷり入っています.
また和食の大きな欠点に気付いていた高木総監は海軍の白米飯を麦飯に変更させました.

美味と見栄えを重要視するあまり、過度に灰汁を抜き、包丁を入れる和食はアートであり、
日常食としては数々の欠陥を持っています.
食の原点は生命と健康の維持.そのためにはアートとしての和食とは一線を引かねばなりません.
高木兼寛はビタミン草創期発見者の一人ですが、現在の慈恵会医科大学病院(東京都港区)を
創立したことでも知られています.
*1995年にはNASAが宇宙への携行食としてジャガイモを選びました.
 新たな大航海時代は宇宙旅行となりました.
*栄養過多の欧米人や成人病患者が摂食するダイエット食ならば懐石料理は健康食です.

3. 日本人は欧米に較べジャガイモが少食

春から初夏に出回る「新じゃが」.クロロゲン酸豊富な皮ごと食べましょう.
写真は茹でた後にバターとベーコンで炒めるシンプルな料理.


日本人は肉じゃがやフレンチフライ、ポテトチップスを好みますが、この程度の量では
スープ、ローストポテト、ハッシュドポテトやフレンチフライ、マッシュドポテト、
グラタンなどポテトを多様、大量に食する欧米人とは比較にならない少食.

ジャガイモは世界で4億トン近く生産される根菜.
米、小麦、トウモロコシと並び称せられる4大主食ですが、
トップのインドが4,500 万トンに比べ日本はわずか260万トン.
世界的に見ても25-6番.人口比で較べても日本は圧倒的に少食.

コロンブスが南米より持ちかえった後、最初に大量消費を始めたのが18世紀のドイツ.
そのドイツの1,000万トン弱とは較べることが出来ませんが、
フランス、イギリスの半分もありません。
それでも日本ではジャガイモ消費量が野菜類の中では断トツ。
(中国がトップ生産量といわれますが統計精度が不明ですので除外しています.
寒冷地が少ないアジア諸国の生産量はわずかです)

4. ジャガイモの有用性には代替品がほとんどありません
日本で市販される一般的なジャガイモは100g当たり76カロリー.
ボリュームから見れば低カロリーです。
ビタミン類ではカリウムが100g当たり410㎎.
ビタミンB群は総計で100g当たり約1.3㎎.
カリウムはバナナが有名ですが100g当たりの含有量は約350㎎.
ジャガイモはそれに勝ります.
高血圧症に最高の健康食といわれるわけです.

もう一つのジャガイモ最大の利点はビタミンCが35㎎/100g含まれること.
ビタミンCはかんきつ類など高含有食品がいくつもありますが、
ジャガイモのビタミンCには他の食材と単純に比較できない大きな利点があります。
100g当たりでは100㎎含有のレモンと比較して圧倒的に劣りますが、ジャガイモ100gは
中玉1個分.それと同重量なレモンは約2個半.
ジャガイモを1食に2-3個食べることは簡単ですが、レモンを2-3個食べるのは
容易ではありませんし、コストもかかります.
またジャガイモは保存性に優れ、ビタミンCもアミノ酸に包まれて柑橘類より長期保存されます。
ジャガイモのビタミンCは柑橘類よりも加熱に強いのが特徴.
認知症、癌(がん)に有用なポリフェノールはクロロゲン酸。
赤紫色の種類はアントシアニンが豊富です。

中央はpurple potatoと通称される紫ポテト.
米国で関心が高まっているタイプです。
黑色に近い紫色はアントシアニン.最も有用なポリフェノールの一つです.
価格が3倍くらいとなるのが欠点ですが味は良好.黄色種と変わりません.
(湘南料理人の松波さん取材)


5. アヒアコ・ボゴタ―ノ(Ajiaco Bogotano )

(写真上)
ボゴタの有名コロンビア料理屋カーサ・ヴィエハ(Casa Vieja)のアヒアコ(Ajiaco).
格別においしいと評判。(湘南料理人の松波さん取材)


世界の食文化に大きな影響を与えたのは16世紀に南米大陸西海岸で
広範囲に栄えたインカ帝国。
勢力範囲はアルゼンチン、チリ、ボリビア、エクアドル、ペルー、コロンビアまで。
インカ帝国13世紀のクスコ王国から数えて1500年にスペインに侵略されるまで
300年は存続しなかった短命帝国ですが、食文化ばかりでなく様々な文化的
貢献を現代社会にもたらしています。
現在のコロンビア(Colombia )は各地に独特な料理がありますが
中でも首都ボゴダ(Bogota)周辺に継承されるジャガイモスープ の
アヒアコ(Ajiaco)は誰もが絶賛するアンデス(Andes)料理の逸品。
南米、中米、カリブ、合衆国南部の広範囲に広がるジャガイモスープのチャンピオンです。
本元のアヒアコ・ボゴタ―ノには様々なバージョンがありますが、基本はチキンの胸肉、
3種類のジャガイモ(コロンビアでCriolla,Paramuna,Sabaneraと呼ばれる種類)、
トウモロコシ。
たいていは玉ねぎも使用します。
香味はグァスカス(guascas:galinsoga parviflora)と呼ばれるハーブ。
調理の秘訣は鶏肉の煮込み時間の30分を最長として、各食材を別々に加熱すること。
最後にハーブとともに合併させ、再度加熱します。
カレーライス同様に食材の使用量は好みです。
ジャガイモを1種類だけ使用する場合は外皮、肉質ともに黄色い品種(Criolla)を選ぶようです。
  
カーサ・ヴィエハ(Casa Vieja)で楽しめるコロンビアの代表的ホットカクテル
が、カネラソ・コロンビアーノ(Canelazo Colombiano).
アニスやシナモンが仄かに香り、アヒアコ・ボゴタ―ノには欠かせないお伴.
(湘南料理人の松波さん取材)
カネラソ・カクテルはサトウキビのスピリッツ(アグアルディエンテ:aguardiente)に
ナス属の小さなオレンジ様果実ナランヒージャ(naranjilla:Solanum quitoense)とシナモンと
合わせて作るカクテル.
カネラソはコロンビア、エクアドルが著名ですが、様々なバージョンがあります.
中南米のスペイン文化圏で特徴的なのがアグアルディエンテなどのサトウキビ・スピリッツ.
ブラジルのカシャーサ(cachaça)やカリブのラム(rum)が最も著名ですが、いずれも
生絞りライムなどのかんきつ類と砂糖を加えて飲むのが一般的.

6. ヴィシーソワス(Vichyssoise Soup)
暑い時期に世界的にファンが多いジャガイモの冷製スープ。
Crème Vichyssoise Glacée(氷のクリーム・スープ)と呼ばれたくらい
バター、クリーム、ミルクがたっぷり。
ジャガイモスープの西のチャンピオンといえる美味と知名度ですが、
カロリーたっぷり、バター、クリームなど飽和脂肪酸がたっぷり。
クロロゲン酸などの重要成分が集中する皮やそれに近い部分は切り捨て.
加工過剰な近代的調理となって、栄養過剰な方にとっては健康度の低い料理となっています.
アヒアコにも近年は生クリームをかなりたっぷり使用するレシピがあるようですが、
ヴィシーソワスに較べれば健康度は比較にならない健康スープです.

ヴィシーソワスはフランス中南部のヴィシー近郊(Vichy)生まれの調理人が
20世紀初め(1917年)に米国の高級ホテル併設レストラン(ニューヨーク・シティー)で
サービスしたのが始まりといわれています.
ジャガイモとリーキの基本レシピは19世紀後半にはフランスに存在していたようですが、
冷製を砕氷に載せてサービスしたのは、この調理人が最初と推定されています.
ヴィシーソワス・ニューヨーカーのレシピはジャガイモのマッシュに
リーキ(leeks:ポロねぎ:下仁田ネギのような下膨れの太いネギ)、
チキンスープストック、クリーム、バターです.

ニューヨークで有名なレシピの一例(4人分)

  • 2 potatoes
  • 3 large leeks
  • 3 tablespoons butter
  • 3 cups chicken stock
  • 1 bay leaf
  • 1 cup milk
  • 1 cup heavy cream (whipping cream)
  • 1 teaspoon salt
  • 1/4 teaspoon freshly-ground white pepper
  • Fresh chives, to garnish

7. アヒアコ(Ajiaco)に使用するジャガイモは3種類(Criolla,Paramuna ,Sabanera)
 
ナス属のジャガイモ(Solanum tuberosum L,Solanum )は
ナス目 ナス 科 (Solanales Solanaceae )
正式名称は英名がポテト(poteto)、和名はジャガイモ.
広義のジャガイモは原種が亜種を含めて200種類くらい.
学名となっているものもたくさんあり、学者の名前がついています.
その後の発展でバリエーションは数千種類はあるといわれますが、食用として実用化された
現在のジャガイモは、ほとんどがSolanum tuberosum.
永い改良の歴史を持つ根菜ですから、市場には多数の分類がありますが
名前は生産者が適当に命名する俗称、通称であり、オフィシャルな名称ではありません.
市場では一般的に色と形で区別しています.
日本の場合も市場には農林省に登録された60種類くらいの様々な通称があります。
(表示価格は2015年8月現在)

アヒアコ(Ajiaco)に中心的に使用されるSabaneraと呼ばれる赤皮ジャガイモは
独特の食味から愛好者が多く、アメリカ南部のスーパーでは様々な形態で売られています.
日本でもアンデスまたはレッド・アンデスと通称されて需要が急増しているようですが
大量生産には向かない品種のため販売量は十分ではありません。
オリジナルは小さな丸型だったのでしょうが、日米ともに卵型の大型種が増えているようです.
 
(写真上左)サクラメント渓谷のヨロ郡(Yolo County:カリフォルニア)で2010年頃より
生産(商社?)されているカラーポテト.3種混合で小玉が 640gで3.29ドル、
中玉で 640gが4.29ドル.(2015年8月現在)
一般的な黄色種が約1.5ドルですから、かなり高いものになります.
ヨロ郡はトマトの一大生産地.全米の90%はここで生産されます.
(写真上右)ダラス近郊キャロルトンの商社(?)が販売する3色ミックス(メドレー).
非遺伝子組み換えを標榜.
パーティーなどでは3種類のカラフルな盛り合わせが好まれるようです.
大きさは通常3種類、洗浄済みで皮ごとすぐ使用できます.
いずれも小粒なために調理時間が短縮できるのも利点です.
*米国のジャガイモはアイダホ州、ワシントン州が中心的な産地.
夜間気温が下がる寒冷地が好まれますので北西部、北中部に集中しています.

(写真上)テキサス州ヒューストンのスーパーで売られるポテトセット
これはどちらかといえば伝統的なジャガイモ(French fingerling potato)で
アヒアコに使用するのにも適しています.
ジャガイモはアンデス地域よりヨーロッパに渡った後に進化してアメリカ大陸に
里帰りしたものがほとんどです.
スープ の アヒアコ(Ajiaco)に使用するジャガイモ3種類は
でんぷん質(スターチ)の食味が異なるものが選ばれています.
(表示価格は2015年8月現在)(湘南料理人の松波さん取材)

(写真上)ヒューストンで購入したジャガイモの外面と内面.アントシアニンが強い
紫色のポテトが特徴的.
(写真下)日本で売られているレッド・アンデス
 
皮の赤いSabaneraは日本でも栽培されています.通称レッド・アンデス(写真上左)と
レッドムーン(写真上右:種苗生産会社サカタのブランド)とよばれる種類は形状が異なりますが
ほぼ同一種.


最近は日本でも多様なジャガイモが販売されています.


 
(写真上)
テキサス州やルイジアナ州の有名なザリガニ料理も付け合わせ野菜はコロンビア風に赤ジャガイモと
とうもろこし、たまねぎ.皮を剥かない赤ジャガイモは栄養満点.
テキサス州南部やルイジアナ州はフランス文化、イギリス文化、アンデス文化、
メキシコ文化、カリブ文化が混在している興味深い地域です。
(湘南料理人の松波さん取材)

8. アヒアコの香采グァスカス(guascas:galinsoga parviflora)とは
グァスカスは日本でコゴメギクと呼ばれるキク科の雑草的植物.
繁殖力、生命力旺盛で各地の路傍では厄介者扱いされている野草。
そのバイタリティーから英語圏ではgallant soldiers(勇敢な兵隊)との俗称もあります。
本場のアヒアコ(Ajiaco Bogotano) はコロンビア産のグァスカスを使用しますので
世界各地のラテン料理食材販売店では乾燥グァスカスを販売しています。
ただし中南米、カリブ各地では好みのハーブを使用したり、ハーブ無しで調理します.
日本ではヨモギやタンジ―で代用するのも良いでしょうが、路傍の野草は除草剤が
使用されていることが多いので危険。
専用に栽培されたものか、自家栽培すべきでしょう.

(生鮮食材研究家:しらす・さぶろう)

初版 :2015年8月
改訂版:2017年6月

 

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