健康と食品の解説
チアシードのブレイクで話題となった青酸化合物ビタミンB17 :
米国国立がん研究所が完全否定し、禁止したアミグダリン癌代替治療
2016/03/18


1. チア・シードのブレイクで注目されたアミグダリンとは
2. クレブス氏(the Krebses)とは
3. クレブス氏が信用されないわけ
4. 米国国立がん研究所のVitamin B17に関する見解
5. 日本におけるアミグダリン
6. パンガミン酸(Pangamic acid)またはVitamin B15とは
7. チア・シード:Salvia hispanica



1. チア・シードのブレイクで注目されたアミグダリンとは
ダイエットに良いとブレイクしているチア・シードは食用のシソ科植物の種ですが、
注意しなければならないのは癌に有効とする通称ビタミンB17含有を
売り文句にする商品があること。

1950年代に米国でビターアーモンド(Amygdalus dulcis)の種核(仁:kernels)から
取り出した配糖体にレートリル(laetrile )と名付け、癌の増殖を抑制すると主張したのが
クレブス氏(Ernst Theodore Krebs, Sr. )。
氏によってVitamin B17とも名付けられましたが、
後にそれはアミグダリン(amygdalin:C6H5-CHO)と同じものと指摘されました。
食用のアーモンドはいろいろな種類がありますがスイート・アーモンドと総称されます。
スイート・アーモンドのプラムのような果実の種から皮を除去した核が食用のナッツとなります。
ビター・アーモンドと総称される種類は青酸化合物前駆体アミグダリンの含有量が多いために
食用にされることは稀.

2. クレブス氏(the Krebses)とは
半世紀以上前のレートリル(laetrile )の論文が否定され、忘れ去られつつある
クレブス氏とはどんな人物だったのでしょう。
クレブス氏の名前は末期ガンの患者に青酸化合物前駆体を含む枇杷(びわ)の
種核(仁:じん)などを販売する業者に利用されることがあります。

クレブス親子(the Krebses)とは。
Ernst Theodore Krebs, Sr. (1876 - 1970)
Ernst Theodore Krebs, Jr. (1911 – 1996).

シニアの経歴は時代が古いために(日本の大正期)不明ですが、ジュニアの経歴は
幾つものメディアに記載があります。
ジュニアは医学校の経験が少なかったようで、医学知識はシニア経由だったようです。
ネバダ州カールソンに生まれ、医学校に入学するも留年や落第で卒業できず、
その後多数の医科大学を受けたにかかわらず入学許可が得られませんでした。
学士過程はイリノイ大学(the University of Illinois)の文系学部。
博士課程はキリスト教系の聖書関係研究だそうですが、
Doctor(博士)は同じですから他人は医学博士と誤認するでしょう。
エネルギー代謝回路を図解したクレブスサイクル(ATPサイクル)で著名な
クレブス博士(Hans Adolf Krebs)とは全く関係ないそうです。

3. クレブス氏が信用されないわけ
アメリカ社会では、なぜクレブス親子(the Krebses)の論文が「詐欺:fraudulent」扱いと
なっているのでしょうか。
 slickest(巧妙な、口先のうまい)とまで酷評されています。
裏付けのない研究成果で癌(がん患者)、アレルギー患者を惑わした、といわれていますが
問題となったのは研究論文の発表後のシロップ販売。
一般的な(ailments)疾病用のシロップばかりでなく、安全性、有益性の検証をせずに
癌に有効と自称するサプリメント・シロップを売り続けたといわれます。
医学に見放された藁(わら)をもつかみたい患者が飛びついたのは当然でしょう。

クレブス親子(the Krebses)がVitamin B17、Vitamin B15など、
ビタミンでもない成分を、もっともらしいネーミングをして社会をけむに巻いたことも
悪評の原因とされています。
いわば昨今の怪しげなサプリメント業者扱いされていたようです。
膵液に含まれる消化酵素キモトリプシン(Chymotrypsin)が癌に有効と
主張した時期もあったといわれます。

4. 米国国立がん研究所のVitamin B17に関する見解
通称ビタミンB17は万人に認められている8種類のVB群とは異なり、
アミグダリンと呼ばれる青酸化合物前駆体。
酵素の働きで青酸(シアン化水素)を発生させます。
米国国立がん研究所は総力を挙げたアミグダリンの詳細な追跡研究によって
「癌治療に効果なし」と断定。
クレブス親子(the Krebses)のレートリルはアミグダリンと同じものであり、癌に効果的どころか
経口で摂食すれば致死率の高い青酸中毒(cyanide poisoning)の危険性すらあると指摘。
「ビタミンでもないのにVitamin B17という紛らわしいネーミング」
「巧妙に仕組まれた利益目的の主張であり、医療史上稀な仕掛け」
20世紀最大の医療成果ねつ造」
とまで非難しました。
国立がん研究所の正式なコメントを受けてアミグダリン(レートリル)はFDA (米国食品医薬品局)
によって販売禁止となり、出回っているサプリメントは非合法なものです。
クレブス親子の評価には「quack remedy:いかさま治療」という言葉が頻繁に出てきます。

5. 日本におけるアミグダリン
日本にはアンズやモモの種核より抽出した杏仁(きょうにん)、桃仁(とうにん)が
生薬として使用されていた歴史があります。
それは咳や痰、アレルギー治療が主であり、悪性腫瘍治療に使用されていた
一般的な記録は見かけないようです。
枇杷(びわ)の葉はアミグダリンが微量なために自家製民間薬として癌の治療に
使用する人もいたようですが、効能は疑問視されていました。
今でも西洋医療が限界となったがん患者がアミグダリン豊富な枇杷、梅、桃の種より
仁(じん)を取り出して利用することはあるようですが、
少量の服用でもシアン化水素が生成され強い青酸毒が働く場合があり、
危険なために民間薬としては一般的でありません。

厚生労働省が懸念するのはアミグダリンが「癌に効き、癌細胞だけを攻撃する」
「ビタミンの一種であり、アミグダリンの欠乏が癌や生活習慣病の原因となる」
と不正な宣伝をする業者が多いことだそうです。
日本では今でも「癌が100%完治する」という違法な宣伝をする業者が存在し、
アミグダリン(レートリル)を主体としたがん治療を実行する
クリニックも現存しています。
参考)
6. パンガミン酸(Pangamic acid)またはVitamin B15とは

パンガミン酸(Pangamic acid)はクレブス親子(the Krebses)が命名。
アンズの種子(杏仁)から抽出されたd-gluconodimethylamino acetic acidと
いわれる物質。
商用にはバンガメート(pangamate)とも呼ばれます。
クレブス親子は、これもアミグダリン(ビタミンB17)のようにVitamin B15と名付けました。
パンガミン酸は様々な疾病に有効と売り出されましたが、米国やカナダの関係機関はこれを否定。
カナダでは取引をすることが禁じられているようです。
パンガミン酸は不良サプリメントの代名詞ともなっていますが、
欧米では様々な合成原料から作られてVitamin B15やパンガミン酸(Pangamic acid)として
サプリメントが販売されています。

7. チア・シード:Salvia hispanica
チア・シード(Chia seed)は南米原産のサルビア系チア(Chia)の種。
植物性オメガ3のα-リノレイン酸が平均64%くらい含有され、キウイ・シード、
フラックスシード、荏胡麻、シソを引き離しα-リノレイン酸含有率が可食植物ではトップ。

オメガ3には植物性と動物性があります。
α-リノレイン酸は植物性オメガ3ですが、魚類のオメガ3であるDHA/EPAとは異なる脂肪酸です。
α-リノレイン酸は体内でDHAに変換するといわれますが、変換比率は小さく、その詳細は未明。
オメガ3有用性の研究論文やコホート(大規模疫学調査)は、ほぼ全てが
魚類由来のオメガ3でありα-リノレイン酸ではありません.

チアシード・オイルは小規模な疫学的調査がいくつか発表されており、
オメガ3脂肪酸グループとして「DHA/EPAと協働させると大きな効果がある」
という研究を否定する人は少ないでしょう。
双方にどの程度共通する機能があり、DHA/EPAとの協働、代替がどの程度可能かは
今後の大規模調査を待つ必要があります。
 
チア・シードで注意しなければならないのは癌に有効とする通称ビタミンB17含有を
売り文句にする商品がいまだに日米に存在することです。


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