ケン幸田の世事・雑学閑談(千思万考)
第三十一話:「企業による文化支援で地方創生を」
2014/11/05
我が国が戦後の経済成長につれ、先ずは農漁業から製造・建設業へと、
次いで製造建設分野からサービス産業へと、労働人口が急速に移動した結果、
現在では第一次産業就労者は激減して約3百万人、第二次産業人口も減少し続け、
今や1千8百万人、そして」第三次産業人口は増加中の4千4百万人となっております。
総労働人口6400万人に占める比率は、それぞれ順に5%、27%、68%で、
これを約半世紀前(1970年の総労働人口は今よりも約1千万人少なかったのですが
、以下は産業別比率で捉えています)と比較しますと、
当時は20%、34%、47%でしたから、農漁業人口比の8割もの大幅減と
製造業人口比2割減が、あわせてそのまま、サービス産業の人口比急増へと
振り替わったことが分かります。この傾向からも地場産業の衰退と少子高齢化が
一層加速され地方の過疎化は今後ますます進み、全国1700市町村のうち、
近いうちに半数以上もの存続さえ危ぶまれているようです。
地方創生が政治の課題となっているのも宜なるかなと思います。
但し、これまで発表されてきた中央や地方政府による近視眼的な諸施策だけでは、
何か一本欠けているような気がしますし、筋の通った長期的な戦略が
抜け落ちているのではないでしょうか。
 
先日、「瀬戸内の三美術館を巡る」というツアーに参加して、岡山倉敷の大原美術館、
香川県直島のベネッセアートサイト(地中美術館やミュージアム)、
徳島鳴門の大塚国際美術館を見て回って来ました。
それぞれ、倉敷レーヨンの創業者と二代目・大原家のスポンサーによる日本最古の
西洋美術館、福武書店・ベネッセの福武家二代がスポンサーとなり、
瀬戸内海の離島の景観を生かし、自然を壊すことなく各種建物を設計したのが
世界的建築家安藤忠雄で、ミュージアムのあるホテルや屋内外に展示された
モダンアート、天窓から自然光を取り入れた地中美術館、
そして町に散らばる空き家を活用した家プロジェクトなど、
ベネッセの社会貢献事業、そして大塚製薬グループの大塚家二代の
全面支援により世界初の陶板名画美術館(油絵が五百年持たないのに比し、
陶板焼き付けの色彩は2千年以上保持されるそうです)と、
いずれも創業家企業が支援した世界的文化事業であります。
設置場所は、創業者ゆかりの地・片隅の市町にありながら、
国内はもちろん、世界中から訪れる多くの観光客が絶えないことに
、地方活性化のヒントが潜んでいることを教えてくれています。
それと比べて、最近は大成功して資金的余裕もある筈の起業家や
事業体(ソフトバンク、ユニクロ、楽天等)が、スポーツチームや選手の
スポンサーにはなっても、自然美豊かな我が国の地方や世界の人々に目を向けた
文化事業への支援が欠けているのではないかと危惧されます。
ここは、現生の創業者たちの自覚や自発動機に俟つよりも、
官民が、特に地方政府や文化人が声を上げて有力実業家へ支援協力を
求めるべきではないでしょうか。
そして、政府も“ふるさと納税”といったようなチマチマした戦術でなく、
文化畜産等、“永続する無形資産への大口寄付や投融資”に対する超法規的な
戦略施策(当初の投下額に対して、例えば3か年間限の無税とするとか)を講じて、
これを強力にバックアップして貰いたいと提言するものです。
 
地方活性化の目玉として先ず取り上げられるのは観光ですが、
一概に観光と言っても、景観や史跡、社寺参拝とか温泉巡り、
アミューズメントといった表層的な行動原理だけを想起するのではなく、
観光学、すなわち地域管理と産業・文化・環境を含めた経営学にまで“想い”を
至らせなければならないと考えます。
つまり、歴史や美術・文学、商学、経済学、社会学、心理学など
文科教養系の思考と、工学、数学、地理、考古学等々、
科学技術全般にまたがる理科系の思考をミックスさせることが肝要なのです。
人が「自らの居住地(国)」を離れ「観光したい目的地(国)」を往復するには
、必ずトランジットする「立ち寄り地(駅、港、空港)」が不可避でしょう。
観光を解明し対策を打つには、こうした三つの場所で起こる諸現象を捉えた上で、
旅行業者、宿泊業者、運送業者といった主要業界と、
観光客、地場産業、地場風土・文化を取り巻く人間集団を結びつける
ソフト・ハード両面の研究開発が求められて居る分けです。
従って、観光庁や地方団体の観光課だけが観光行政を担うには荷が重すぎるし、
所詮「査証緩和「免税枠拡大」「外国語表示増」とか「おもてなし」に頼るだけの
「付け焼刃的な発想や施策しか生み出せないのです。
筆者の海外旅行やビジネス体験で耳目にしたことは、観光に強い
フランス、イタリア、アメリカなどは、国外へ向けた文化広報戦略と
経営学、地理考古学、生物・鉱物学、通商産業政策(単に産業保護育成に
留まらず、山岳森林海洋湖沼河川等地勢政策までを含め)が結びついた
統合的な国家戦略が見受けられます。
そこには「サービス産業」に伴う文科系・理科系総合の産学政の連係プレイ、
しかも国家と地方のタイアップが透けて見られるのです。
日本の場合も、国交省のみならず、文科省、経産省、財務省、総務/厚労省、
農水省など国家体制が、府県や市町村行政まで、広く巻きこんだ総合的な
努力なくして観光の真の勃興は成し得ないと思量致します。
日本では観光、娯楽、レジャーなどが、ごちゃ混ぜというか一体化されて
発想されるので、地方創生案にカジノのようなプランが提起されたりしますが、
欧米では、ツーリズム、レジャー、イベント、アミューズメントなどは、
いずれも切り離された(それぞれが独立した別の)体系として、学問の対象にもなり、
事業分野にもなっているのです。
 
国連機関による昨年の国際的旅行者数は11億人にも上り、
近年は年率約5%づつ伸びているそうです。
こうした国際的ツーリズムブームの追い風もあって、日本でも訪日観光客が
1千万人突破とのニュースになっており、確かに今般の瀬戸内海周遊・三美術館の旅でも、
かなり多くの欧米人を目の当たりにしました。
しかしながら、上記国外観光客の数字から見ても、フランスが8%、
米やイタリヤが5~6%も集客しているのに比し、我が国のそれは、
わずか1%に過ぎないのです。
目下、アジア圏に中間所得層が勃興しつつあり、格安航空も普及してきた折から、
各地に世界文化遺産が続々誕生している日本には、絶好のチャンスだと思われますが、
今のところ大半は大都市での“買い物客”か、北海道のスキー、
京都の史跡めぐり等が目立つ程度で、各地の文化施設への訪問客は
欧米系、しかも少数に限られている(確かに今般の瀬戸内海への旅でも、
欧米系に比してアジア系は微小数でした)のが残念です。
日本の美術・博物館は、大英やルーブル、メトロポリタンほどの規模こそなけれど、
展示物の内容と上質性や価値には、世界に誇るべきものが多々あります。
その上、地方には、和紙、織物、染色、木工竹ガラス各種細工、漆・蒔絵、陶磁器、
刃物、金彫り、各種伝統の民芸、祭事、舞踏、雅楽、人形劇等々、
世界に誇る工芸文化がメジロ押しですから、もっと“文化の奥深さに宿る感動”を、
世界へ向けて売る努力を官民挙げてすべきではないでしょうか。
観光は立派な“人起こし産業”だということを、人の移動が富を生み出すことを、
そして、海外から人を招くことが、国を豊かにすることを、今一度考え直してみたいものです。
そこにこそ、地方創生の鍵が宿っていると言えましょう。
 
 
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